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手袋で毒殺? カトリーヌ・ド・メディシスの罠【鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」】

手袋に仕込んだものは

当時のなめし革の手袋は人尿でなめすことが多かったので、匂い消しのために香水を染み込ませる習慣があったが、その香水もルネが作っていた。フランスにはまだ調香師というものが誕生していなかったからである。

岸リューリ 
イラスト◎岸リューリ

宗教戦争で国論が二分され深刻な対立が起こったとき、カトリーヌ・ド・メディシスは政敵を亡き者にするため、メディチ家の伝統であった毒殺に訴えたが、そのときに利用されたのがこの手袋だった。というのも、高級手袋と香水を一手販売していたルネは、カトリーヌがそのために連れてきた毒薬の調合師でもあったからである。

のちのアンリ四世の母ジャンヌ・ダルブレもカトリーヌから贈られた手袋の遅効性の毒で殺されたという噂が流れたほどである。

だが衣服の流行というのは恐ろしいもので、こんな事件があってもフランスの宮廷では手袋はいっこうにすたれなかった。流行は善悪どころか恐怖心さえ超越しているのである。

【グリの追伸】飼い主が一週間、パリに行っていましたので、ひたすらお留守番してました。ひどいじゃないかと、思い切り、恨んでやりました。

シャトルリュー 猫 グリ 鹿島茂
恨んでるところです

photos by Shigeru Kashima

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Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。専門は19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰

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