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明治・大正期に煌めいた超絶技巧を秋の京都で堪能する【what to do】

知的好奇心あふれる『マリ・クレール』フォロワーのためのインヴィテーション。それが”what to do”。今回は、100年ほど前、日本で花開いた超絶技巧に京都で眼を凝らしたい。京都市京セラ美術館で開かれている「綺羅(きら)めく京の明治美術」展と、京都髙島屋で開催中の「刺繍絵画の世界展 明治・大正期の日本の美」。絵画や陶芸、そして金工などジャンルを問わず、とてつもなく熟練した手仕事の堆積に驚くはず。現代美術が「手仕事」を素通りして、一種「アイデア勝負」になっている現状に対する、清涼剤にもなっている。

京都市京セラ美術館の企画は、1890年に始まった「帝室技芸員」という制度から生まれた作品を紹介している。皇室によって優れた美術工芸家を顕彰、保護するのが目的で、1944年まで続いた。今回は帝室技芸員に選ばれた当時一流の美術家たちの中から、京都にゆかりのある作家19人の作品を前期、後期に分けて計約150点を展示している。

並河靖之《蝶花唐草文香水瓶》 明治20年代前半 清水三年坂美術館蔵

制度の始まった明治時代は、近代化を推し進め、国際社会の中で日本の存在感を高めることが大きな目標となった。国威発揚のために、美術・工芸品も利用された。江戸時代までの作家は主に注文主のために作品を制作していたが、明治以降は、海外で開かれる万国博覧会への出品のためなど、国や行政の求めに応じて作品を作る機会が増えていった。そうした情勢の変化を支えたのが帝室技芸員制度だった。

精密な手仕事を強調した作品に圧倒される

絵画、陶芸、金工、七宝、そして綴織……。いずれも国家の威信を背負い、巨大なスケールや精密な手仕事を強調した作品が目立つ。そんなこともあって特別な知識を持っていなくても、作品を前にすると、圧倒され、思わず細部に見入ってしまう。展示作品の中には、海外の博覧会などに出品されて入賞したものもあり、実際、その緻密な手仕事が多くの人を驚かせたという。

神坂雪佳(図案)、二代 川島甚兵衞《紋織窓掛試織「百花」》(部分)、明治37(1904)年 川島織物文化館蔵 画像提供:川島織物文化館

例えば二代川島甚兵衞の「紋織窓掛試織『百花』」は、神坂雪佳の原画を基に制作された絢爛たる紋織物。遠目には雪佳の絵にしか見えず、近づいて初めて織物だとわかる精巧さ。並河靖之による七宝にも目を見張る。「蝶に花図香合」は手のひらに収まる小さなサイズだが、2頭の蝶が舞い、その周囲を牡丹や桜をイメージした花々が囲む。香合というより、むしろ宝石のような美しさだ。

重要文化財 初代 宮川香山《褐釉蟹貼付台付鉢》 明治14(1881)年 東京国立博物館蔵 TNM Image Archives

「超絶技巧」ということなら、京都・眞葛原に生まれた初代宮川香山の作品も外せない。「褐釉蟹貼付台付鉢」は近代の陶磁器として2002年に初めて重要文化財に指定された逸品。歪められた深鉢に、大小2匹の渡り蟹がへばりついている。蟹のマットな質感まで再現され、本物と見間違えるほど。その作品は「マクズ」として海外でも高い評価を受けた。会期は9月19日まで。今週末から始まる3連休に時間をつくって京都へ駆け付けてほしい。

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Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。近年、盛んに開かれるようになった超絶技巧がらみの展示。正直、「ネタ切れ」の雰囲気もあったが、今回の刺繍絵画展を観て、まだまだ底知れないリソースがあるように感じた。

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