『鎌倉殿の13人』で躍動。三谷幸喜とミュージカルスターの浅からぬ縁
2022.8.6
2022.8.6
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そんな中、頼朝と政子という、てっぺんに上り詰めた人物の傍で”脇役”に甘んじでいたものの、ふと野心を抱いたことで悲劇に見舞われる夫婦を演じる新納慎也と宮澤エマは、それまで気づかれなかった俳優としての魅力を、三谷によって”発見”されたミュージカルスターといえる。
源頼朝の異母弟である阿野全成(あのぜんじょう)を演じる新納慎也は、大阪芸術大学で演劇を学び、20歳で上京してからは『ラ・カージュ・オ・フォール』(1999年~)、『エリザベート』(2000年)などミュージカルを中心に活躍してきた。
彼が初めて出演した三谷作品は、2007年の舞台『恐れを知らぬ川上音二郎一座』。歴史ある劇場が林立する日比谷に誕生したシアタークリエの記念すべき柿落とし公演だった。
これ以降、オフブロードウェイでも上演された舞台『TALK LIKE SINGING』(09年)や、『日本の歴史』(18、21年)、テレビではNHK大河ドラマ『真田丸』(16年)、『風雲児たち〜蘭学革命篇〜』(18年)など、多くの三谷作品に登場している。イケメンで、コミカルな演技も持ち味だった新納を、三谷は「内面に哀しみの塊を抱える人」と評し、内に毒や屈託を抱える人物を新納にあてて新たな魅力を引き出した。
全成の妻・実衣(みい)役の宮澤エマもまたミュージカルの舞台に数多く立ってきた。
2013年の宮本亜門演出『メリリー・ウィー・ロール・アロング 〜それでも僕らは前へ進む〜』で役を得て以降、『シスター・アクト〜天使にラブ・ソングを〜』(14、16年)、『ラ・マンチャの男』(15年)、『ウエスト・サイド・ストーリー』(20年)など、数々の大ヒット・ミュージカルで大役を担ってきた彼女は、18年に『日本の歴史』で三谷作品初出演。ミュージカル界の歌姫が平清盛に扮してスキンヘッド姿で歌い踊り、意外な一面を見せた。
彼女はその後、三谷がメガホンをとった映画『記憶にございません!』(19年)でも、野暮ったくて愛想も可愛げもゼロな通訳になりきり、これまたファンを驚かせた。その後、AmazonPrimeの配信ドラマ『誰かが、見ている』(20年)に続いて『鎌倉殿の13人』への出演と、三谷作品の常連となっている。
宮澤が演じる実衣は、姉の政子にとって気の置けない妹で、ドロドロしがちなドラマを和ませる存在だったのが、頼朝が亡くなったのを機に、封印していた姉への妬みや、夫に託す野心を噴出させていく。三谷はインタビューで、宮澤の演技を見るうちに、実衣の人物像をもっと膨らませたくなったと語っている。三谷にとって宮澤は、創作意欲を刺激する女優のひとりなのかもしれない。
次回8月7日(日)の放送では、全成&実衣夫妻を取りまく状況が急展開を見せる。ちょっとマヌケな夫に皮肉屋の妻──切迫した場面でもどこかのん気な空気を醸してきたこの2人をどんな運命が待っているのか。目が離せない回になること必至だ。
今後も、北条政子と対決する公家女官・藤原兼子に扮するシルビア・グラブや、頼朝の次男・源実朝役の柿澤勇人など、ミュージカルで活躍する俳優たちが登場予定だが、事前に発表されるキャストだけに限らない。
たとえば、数々のミュージカルの舞台に立ち、現在公演中の『BE MORE CHILL』にも出演する木戸邑弥が、大姫との縁談が進められる一条高能役で6月19日放送の第24回に登場したのはファンにとってサプライズだった。
このあとも、思わぬ場面で今をときめくミュージカル俳優に遭遇できるかもしれない。
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香月友里
かづき ゆり。フリーライター。出版社の編集者を経てライターに。同居する5匹の犬猫たちにお仕えしながら、映画とドラマと演劇とJ-POPにどっぷり浸る日々を送る
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