×

トーハク、集古館、そして民藝館……。初夏の東京で、沖縄の美を堪能し尽くす【what to do】

とてつもない手仕事が凝縮された芭蕉布の魅力

中央の女性が平良敏子さん。「苧績(ウーウ)み」という繊維を繋いで長い糸を作る作業を行っている

【関連記事】鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」【夏至の頃、夜に四つ葉のクローバーを摘んだら幸せに!?】

「上京してきてくれた」という点では、大倉集古館(東京・虎ノ門)で開かれている「芭蕉布-人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事-」展(~7月31日)も得がたい。芭蕉布は、亜熱帯を中心に分布する植物の芭蕉からとれる天然繊維を原料とした沖縄を代表する織物。戦前に4度、沖縄に長期滞在している柳宗悦は『芭蕉布物語』という著作の中で、「今時こんな美しい布はめったにないのです。いつ見てもこの布ばかりは本物です」と、その美しさを顕彰している。

やんばるの風土を濃密に反映した貴重な織物

糸芭蕉は、育てるのに3年ほどかかる。茎の太さを一定にし、繊維を柔らかくするため、年に3、4回、葉や茎の先端を切り落とす

現在101歳の平良さんは沖縄本島北部の喜如嘉で、戦後消滅しかけていた芭蕉布を紡ぐ伝統技法を復興させ、00年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。自分自身、公私含めて結構、沖縄へ行っている方だと思うが、北部は名護止まり。やんばるは、那覇からバスを乗り継いで行くにはやや遠い。喜如嘉にある芭蕉布会館も訪ねようと機会を狙っていて果たせずにいたが、有り難いことに向こうからきてくれた。

芭蕉布 着物「銭玉(ジンダマー) 番匠(バンジョー)」 経緯絣/琉球藍、車輪梅/1975年/芭蕉布織物工房所蔵

展示では、平良さんが「友部(ドゥシビー)」と呼ばれる盟友たちと手がけてきた約70点の作品を紹介。琉球王国時代の装束を再現した貴重な作品などに加え、布を織り上げるまでに30もの地道な工程で使われる道具類も展示してあり、沖縄の手仕事の魅力を間近に感じることができる。憧れの布や衣裳を東京で実見できる幸せといったら!

Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。加齢と共に物欲は萎えつつあるが、芭蕉布の着物だけは生きているうちに是非羽織ってみたいと思う。独特の張り、風がすっと抜ける軽やかさ、そして凜としたたたずまい……。恐らく最上級の贅沢とは、手仕事が凝縮された芭蕉布を纏った時のようなことを指すのだろう。果たして賃労働の身にも買えるのか? 関係者に相場を聞いて、きっぱりと諦めることができた。桁が違った。パンデミック下で難しいとは思うが、着付け体験などのイベントを実施してもらえぬか。

リンクを
コピーしました