鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」【夏至の頃、四つ葉のクローバーを摘んだら幸せに!?】
訳あって、こうなってます
1年で昼の時間が最も長くなる夏至。逆に言えば夜の時間が最も短いというこのタイミングに、じつは幸運のチャンスが潜んでいる……?
フランス文学者であり、その博覧強記ぶりでも知られる鹿島茂さんが、愛猫のグリ(シャルトリュー 10歳・♀)とともに、今では私たちの生活にすっかり溶け込んでいる海外ルーツのモノやコトについて語ります。(本記事は鹿島茂:著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(中公文庫)から抜粋し作成しています)
アダムとイヴが楽園から持ち出した説も
もう25年ほど前になるが、ニューヨークの中華街を歩いていたとき、どの店にも招き猫が飾ってあり、日本の招き猫も国際的になったものだと驚いた記憶がある。
フランスにもこうした幸運や幸福をもたらす縁起物はあって、これをポルト=ボヌール(porte-bonheur)という。代表的なものに、馬の蹄鉄(ていてつ)や四つ葉のクローバー(le trefle a quatre feuilles)などがある。
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このうち、大流行した時期がはっきりわかっているのは四つ葉のクローバーで、1887年にパリのモードは、ペンダント、ブレスレット、ネクタイピン、ブローチなど、ありとあらゆる装飾品がこの四つ葉のクローバーによって席巻(せっけん)された。20世紀初頭に絵葉書がはやると、四つ葉のクローバーは絵葉書に描かれて世界中に信仰を広めていった。
ところで、この四つ葉のクローバー、流行したのは19世紀の末だが、民間信仰が始まったのは非常に古く、中世にさかのぼる。信仰の由来は、国や地方によりことなるが、その一つに、アダムとイヴが楽園を追われたとき、唯一楽園から持って出たのがこの四つ葉のクローバーだったという説がある。
ただ、どの民間信仰でも、たんに三つ葉の中から四つ葉を探しだすだけでは駄目で、見つけるにふさわしい時期があるようだ。夏至(げし)の前夜あるいは聖ヨハネ祭(6月24日)の夜だけという厳しい制限のものから、月明かりの夜ならいつでもオーケーという比較的ゆるやかなものまで、ヴァリエーションは様々だが、いずれも、夜摘むというところにミソがあるらしい。
では、この四つ葉のクローバーがどんな幸運や幸福をもたらしてくれるのかというと、それは、四つ葉がそれぞれ分担している「名声・富・愛・健康」ということになっている。
ただ、たった一本の四つ葉のクローバーで四つの幸運・幸福全部をかなえてもらうのは欲深すぎると殊勝なことを考えたのか、そのうちの一つに焦点を絞っている地方もある。
たとえば、ベルギーのワロン地方では、無病息災(むびょうそくさい)で船旅を終えることができる健康運、フランスのロレーヌ地方では、真夜中の零時(れいじ)に摘んだものにかぎり、すぐに結婚できる愛情運というように。四つ葉のクローバーの民俗学をやってみたら地方色がつかめて案外おもしろいかもしれない。
【グリの追伸】この家は、いたるところに本や雑誌が転がっているので、その隙間に寝るようにしていますが、これがなかなか難しいのですよ。
text&photos by Shigeru Kashima
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