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【注目映画】生まれ付き寝たきりの少女とその家族の温かい日常を描くドキュメンタリー

秀勝さんと理佐さん、帆花ちゃんの暮らしは笑顔に包まれている

脳死に近い状態で生まれた帆花(ほのか)ちゃん。両親は限りない愛情を娘に注いで、明るく前向きに日々を過ごしている。そんな家族の日常を見つめるドキュメンタリー映画『帆花』が1月2日から東京・ポレポレ東中野などで公開される。

生後すぐに「脳死に近い状態」と宣告された寝たきりの少女とその家族をみつめるドキュメンタリー映画『帆花(ほのか)』(國友勇吾監督)が2022年1月2日から東京・ポレポレ東中野ほか全国で順次公開される。ほとんど体を動かすことができず、1日24時間常に医療的ケアが必要な帆花ちゃんと両親の西村秀勝さん、理佐さん。家族の日常から、命の輝きが浮かび上がる。

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人工呼吸器が必要な帆花ちゃんを自宅でケア

帆花ちゃんは、誕生直前にへその緒の血管が切れたため、脳死に近い状態で生まれた。人工呼吸器につながれたままの帆花ちゃんは、2007年10月の誕生以来病院で過ごしたが、両親の「自宅で育てる」という決意で、2008年7月に退院。医療的ケアの技術を学んだ秀勝さん、理佐さんは娘の命を支えてきた。

日中はヘルパーの介助があるが、夕方から朝にかけては両親だけで世話をしなくてはならず、秀勝さん、理佐さんは交代で仮眠をとりながら帆花ちゃんの入浴や食事の世話、たんの吸引などを行う。二人とも睡眠時間は1日3~4時間という毎日だ。そして、どんなに入念なケアをしても、体調を崩して緊急入院することがある。

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周りを和やかにする帆花ちゃん

4歳の誕生日。たくさんのプレゼントに囲まれた帆花ちゃんに、秀勝さん、理佐さんは娘の確かな成長を実感する。当初は全く反応がない帆花ちゃんだったが、次第に「あー」と声を発するようになり、指も少し動かせるようになった。

映画では、そんな西村さん一家の日常のほか、秀勝さんの姉の結婚式の様子や、帆花ちゃんに絵本をプレゼントする祖父母などの姿もつづられ、帆花ちゃんの存在自体が周りの人々を温かくし、和やかな空気に包まれる様子が描かれる。

帆花ちゃんは特別支援学校への入学が決まり、西村家はランドセル選びや入学式の服選びで盛り上がる。そして春。入学式へと向かう場面で映画は終了する。理佐さんは、「死」を「生」の続きととらえ、娘との出会いに感謝しながら、そのときが来るまで娘を愛し、1日1日を大切にしていこうと心に誓う。

穏やかな顔で眠る帆花ちゃん

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家族の温かい空気を感じてほしい

國友監督は日本映画学校(現・日本映画大学)在学中の2011年、理佐さんが書いたインターネットのブログをまとめた本『長期脳死の愛娘とのバラ色的生活 ほのさんのいのちを知って』と出会った。そこには、「家族3人で初めて花見に行って、大変だったけど楽しかった」など、どこの家庭でもありそうな日常がつづられていた。國友監督は、「重い障害を持つ子供と聞くと、『かわいそう』とか『大変そう』といった感情を抱いてしまうかもしれない。だが、そうした先入観を忘れさせるほどの素朴さと明るさとパワーとユーモアをその本から感じて、シンプルに面白いと思った」という。

そして國友監督は、西村家に泊まり込むなどして、家族の日々の暮らしを撮影し始めた。「家族のありのままの生活、その時々の出来事を丁寧に撮っていこうと考えた」「理佐さんと秀勝さんがふとしたときに帆花ちゃんを見つめるなど、何げない瞬間や変化を見据えることで、『家族の時間』の積み重ねを映し出したいと思った」と語る。

「この作品制作は、帆花ちゃんを見つめ、また見つめ返されるような感覚の中で、『いのち』について考える時間だった」と國友監督。映画を見て「帆花ちゃんを中心とした、家族の間に流れている温かい空気を感じてほしい」と話している。

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Profile

福永聖二

編集委員、調査研究本部主任研究員などとして読売新聞で20年以上映画担当記者を務め、古今東西8000本以上の映画を見てきた。ジョージ・ルーカス監督、スティーブン・スピルバーグ監督、山田洋次監督、トム・クルーズ、メリル・ストリープ、吉永小百合ら国内外の映画監督、俳優とのインタビュー多数。

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