映画『アアルト』監督ヴィルピ・スータリにインタビュー。夫妻の手紙から見えた素顔と男女平等先進国フィンランドについて
インテリアブランド「イッタラ」や「アルテック」の創業者であり、「スツール60」「アアルトベース」で知られるフィンランドを代表する建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルトの作品は一度は目にしたことがあるだろう。数多くの名建築と名品を生み出した彼の人生には、妻であり同じくデザイナーのアイノ・アアルトの存在が大きいということは母国フィンランドでも知られていなかったそう。
そこでフィンランドの新鋭映画監督・ヴィルピ・スータリが、アイノとの手紙のやりとり、同世代を生きた建築家や友人たちの証言をもとに、アアルトの知られざる素顔や名作の誕生秘話を一本の映画『アアルト』に詰め込んだ。日本公開を機会に映画監督・ヴィルピ・スータリが来日。本作の制作裏側や幼い頃から身近であったアアルト建築の存在、男女平等先進国であるフィンランドの現状まで話を聞いた。
制作期間4年。研究書にはない、手紙に書かれた二人の絆
━━映画『アアルト』を制作時に、アルヴァ・アアルトだけでなく、妻であるアイノ・アアルトに着目しようと思ったきっかけなどあったのでしょうか。
アイノはアートや建築、デザインにおいてアルヴァと一緒に作っていて非常に重要な役割を果たしていました。この二人はクリエイティブなカップルで二人で協力し、有機的で人間的な自分たちなりのモダニズムを作り上げていったのです。そのアイノの重要性をフィランドでさえ知らない人が多く、あまり理解されていなかったので、それを伝えたいと思いました。また彼女は約100年前に女性建築家として、アルテックのアーティスティック・デザイン・ディレクターとして活躍しながら母親でもありました。私も女性映画監督として母親として、こういった女性アーティストがいたということに触発され、それを知らせたいと思い、制作に打ち込みました。
(C)Aalto Family (C)FI 2020 – Euphoria Film
━━アアルト夫妻の手紙はどのようにリサーチしてたどり着いたのでしょうか。
実はこの映画は4年かけて作ったんです。2年間フルタイムで映画にささげ、その前の2年間でリサーチを行い、世界中に散らばっている彼らの情報をつなげる作業を行いました。彼らがデザインした図書館だけを研究している人やアイノだけを研究している人、ロックフェラーや国連、ヨーロッパのアーカイブなどもすべて調べ上げ、たくさんの人へインタビューを決行し、アアルト建築を色々な方向からリサーチしていきました。一番大切なものは最後にやっと見つかり、それが二人の手紙だったのです。お孫さんが大きな茶色い箱に大量の手紙を入れてやってきて、私の前で開けてくれたんです。手紙を読み始めた瞬間に初めて彼女の心の中がわかって、これなら映画が作れると思いました。あとはアイノが撮った写真や8ミリのファミリービデオも見つかりました。これも作中で紹介しています。
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