映画『白鍵と黒鍵の間に』主演・池松壮亮にインタビュー。実力派俳優が作品と向き合う矜持
昭和末期の夜の銀座を舞台に、現実と幻想の間を駆け抜ける狂騒の一夜を描く映画『白鍵と黒鍵の間に』(10月6日公開)で、一人二役でジャズピアニストに挑んだ池松壮亮。ある出来事をきっかけに2人の運命が大きく動いていくが、実は、この2人とは、原作となった回想録を書いた、エッセイストでジャズミュージシャンの南博をモデルとしたひとりの人物。それを池松は銀座に出てきたばかりの夢を追う「博」と、夢を諦めた「南」の二役を演じ、本編で実際にピアノを弾いた。
クライマックスに登場する名曲「ゴッドファーザー 愛のテーマ」は、なんと撮影現場で池松の弾く音が同時録音されたもの。いまや日本映画界に欠かせない実力派は、「『実際には一切弾かなくてもいいので』と言われていたら、むしろこの役を断っていたかもしれません」と語った。
仮に間に合わなかったとしても、自分としてはやっていた
――クライマックスの「ゴッドファーザー 愛のテーマ」は、セリフもある芝居をしながら弾いて同録した音源を、そのまま映画に使用したと聞き驚きました! 信じられないような挑戦ですが、俳優さんにとっては、やったことのないことでも「引き受けません」という理由にはならないのですね。
「やります」と言った後、だいたい後悔するんですけどね(笑)。今回はジャズピアニストの映画でその役なわけで、もしもオファーの際に「実際には一切弾かなくてもいいので」と言われていたら、むしろ断っていたかもしれません。
Ⓒ2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会
観ている方にとっては、弾いていようがいまいがどちらでもいいと思うんですよ、そう見えさえすれば。今は、いくらでもごまかす方法はあります。でも僕自身が、そのレベルで人に観てもらいたい作品ではなかったんです、今作が。それだけの理由で、自分で「一曲仕上げます」と宣言した後、あまりに難しくてとても苦労するんです。俺は一体何をやっているんだ、というふうに(笑)。
当たり前ですが、何年もの間、毎日毎日ピアノに触ってきたその道のプロの人たちと同じようになれるとは思っていません。それでもピアノを弾いている時間が、少しでもこの役の風情に近づいていくことを信じて半年間、練習しました。もし仮に間に合わなかったとしても、自分としてはやっていたし、この役をやる上で当然のことでした。
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