40代、50代、60代の俳優たちが輝く！ 「アカデミー賞2023」主演女優賞候補に注目

ミシェル・ヨー 60歳
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

今回のアカデミー賞最多11ノミネートの話題作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』略称「エブエブ」で、主演女優賞にノミネートされたマレーシア出身俳優ミシェル・ヨー。還暦にしてキャリア絶頂を迎える彼女は、ミス・マレーシアに選ばれた経験を持ち、1984年に映画デビュー。香港映画で活躍後、1997年公開『007トゥモロー・ネバー・ダイ』でボンドガールを務め、華麗なるハリウッドデビューを果たした。バレリーナを目指した時期もある彼女は、運動神経抜群で武術もこなし、40作以上の多彩な作品に出演。近年ではマーベル映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』への出演で注目を集めたほか、『クレイジー・リッチ！』（2018）や『ラスト・クリスマス』（2019）でのコメディエンヌぶりも話題に。本作ではコインランドリーを経営する中国人女性エヴリンが、マルチバースを行き来しながらヒーローとして覚醒していくという奇想天外なストーリーの中で、カンフーマスターや映画スター、シェフなど、さまざまなエヴリンを演じ分け、その変幻自在な演技力が称賛された。

本作の脚本・監督・製作を務めた映画監督コンビ、ダニエルズは当初、父親を主役にするつもりで脚本を進め、ジャッキー・チェンにオファー。中国まで行って、ジャッキーと会い、プレゼンしたのだという。しかしそのアイデアがかなわなかったことから、母親を主役にすることを思い立った瞬間、ミシェルしかいないと確信したのだとか。

一方のミシェルは最初に脚本を受け取った時、彼らは正気でないと思ったとポッドキャスト『The Envelope』に出演した際に発言。「だって誰がこんなことを考えるというの？」と笑いながら、主役のオファーに対しては「ついに！　ありがとう」という感じで、「彼らが本当に私のことを見ていて、私がこれだけのことをやる能力があることを示す機会をくれた」と感動したそう。年を重ねるごとに脇に追いやられていく気がして、引退したほうがいいとまで言われるようになっていたというミシェルは、「俳優には出演の機会と自分の能力を発揮できるような役が必要」だと主張。デイムの敬称を冠する88歳のジュディ・デンチと77歳のヘレン・ミレンを引き合いに出し、「年配の女性にも語るべき美しい物語がある」のだから、年齢の“数字”が増えてきたからといって引き下がるべきではないと語った。

「エブエブ」では移民家庭の現実がリアルに描かれているが、長年アジア人を代表する俳優としてキャリアを重ねてきたミシェルにとって、アジア人の家族の物語を伝えることに大きな意味があったという。20年以上前、ハリウッドに来た当初は、「君はマイノリティー」だと何度も言われ、「英語が話せるの？」と驚かれるのが当たり前。誰もが中国や韓国、日本が違う場所だと知らないことにカルチャーショックを受けたというミシェル。多様性について変化を感じるようになったのは、『クレイジー・リッチ！』がヒットしたわずか4年前のことなんだとか。

アカデミー賞を目前に控え、米誌『PEOPLE』の表紙を飾ったミシェルは、オスカーの舞台に立つ可能性があることに関して、最初は本当に自分に起きていることなのかと困惑したというが、「素晴らしい俳優たちと仕事をしてきて、彼女たちと同じテーブルに座り、見てもらう機会が与えられたことにとても感謝している」とインタビューで語った。注目度の高い前哨戦、ゴールデン・グローブ賞（ミュージカル・コメディー部門）とSAGアワード（全米映画俳優組合賞）で主演女優賞に輝き、本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞するとアジア人女性として史上初となるミシェル。歴史的快挙に大きな期待が寄せられている。

text: Akiko Eguchi

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