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主婦の私に米国のママ友が向けた一言。美容ブランドHACCIが生まれた意外なきっかけ

ハチミツを使った美容ブランド「HACCI(ハッチ)」は、高い保湿力のボディ&スキンケア製品や濃厚な味わいのスイーツが人気を集め、デパートや空港などに20店舗近く構える企業に成長した。水谷仁美CEOは創業するまで職業経験が1回もない専業主婦で、大変身の裏には米国での忘れられない経験があったと明かす。

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颯爽と働く社長の母にあこがれ。「私にはできない」と主婦に

老舗養蜂園の娘に産まれ、幼少時からハチミツに囲まれて過ごす。多忙な母に代わり、お手伝いさんに育てられた。

実家はハチミツがごく当たり前にある環境でした。ハチミツが入った産湯につかり、おやつにはローヤルゼリーをいただいていました。砂糖は一切使わず、甘いものはすべてハチミツを使って料理をしていたそうです。

水谷家の女性たちは肌のきめが細かくて、キレイだと有名でした。ハチミツが肌にいいというのは、小さい頃から実感としてありました。

祖父は養蜂家として活躍したのですが、美容と健康をテーマにして祖父が採蜜したハチミツを製品化して百貨店に納め始めたのは母です。あの時代に珍しい女性社長としてバリバリに仕事をし、家庭の中はほぼ仕事一色。私たちきょうだいはお手伝いさんに育てられたようなものです。

覚えているのが、幼い私が熱を出したときのことです。母は「今日は商談がある」といって、手を払いのけて出かけていったのです。その颯爽と出ていく姿を目の当たりにして、女性として社会進出することが「かっこいい」と思ったのです。

といっても、長い間、私には母のようなことができるとは考えられず、将来は専業主婦になるのだろうと漠然と感じていました。家に帰ったらいつもお母さんがいる家庭への憧れもあったのです。

いつ訪れても華やかな雰囲気のHACCIの店舗

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○○ちゃんのママじゃない。「あなたの名前で社会に出なさい」

大学卒業後、花嫁修業を経て、結婚、そして出産。夫の留学に合わせ、息子2人とともに渡米する。

1990年代後半に始めた米国暮らしで、私が一番衝撃を受けたかもしれません。子育てのことばかり考え、息子の友人のお母様とも日本のママ友のように接していたのですが、日本では『〇〇ちゃんのママ』という肩書と違って、「あなたはあなたの名前で社会に出なさい」と、1人の人間として社会の一員になる大切さを私に教えてくれたのです。

通っていたカリフォルニア・ビバリーヒルズのサロンは、初めて会った人ともフレンドリーに話をするような場所でした。あるきっかけでハチミツが話題になったので、それならば、「私の実家は養蜂園」と言って、日本から送ってもらっていたハチミツを配ったのです。そうしたら、「日本のハチミツはとてもおいしい!」と感動されました。

私にとって実家のハチミツは、空気のようなごく当たり前の存在でしたが、それがこんなにも人々を喜ばすことに、感激しました。私も生きた証として、人が喜ぶことをみたいと初めて思うようになったのです。

日本に帰国後も、良いものを伝えたいという思いで、実家のハチミツを使って社会に参加する方法は何かないかと探していました。そうしているうちにたどり着いたのが、ハチミツコスメなのです。それまでアルバイトすら経験がありませんでしたが、社会人デビューは42歳で社長として始めました。聞くものも見るものも全てが新しく、充実した日々を過ごし、今日に至っています。

HACCIの看板商品の一つ。短い時間でお肌の手入れを済ませられるというHACCI スキップローション(左)とHACCI スキップセラム

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メイド・イン・ジャパンの品質に誇り すべての人を幸せに

外出する機会の減少や外国人観光客の入国制限など、コスメ業界を取り巻く環境は大きく変わった。一方で、抗菌・殺菌作用があるとされるハチミツへの注目度は高まっている。

いつも自由な発想を心掛け、挑戦し続けるようにしています。コスメやファッション、あるいは食品の世界でも、職人の技が生み出すメイド・イン・ジャパンの品質に対する信頼は、世界中で高いものがあります。HACCIも日本の価値をしっかり伝えていければ、世界中の方々にも喜んでいただけると信じています。

海外でファッションビジネスなどを学んだ次男が、現在はHACCIの国際事業を担当しているほか、実家の養蜂業を継ぐための準備を重ねています。私の心強い味方になってくれました。

HACCIに関わってくれた人すべてに、幸せになっていただきたいです。コロナ禍では大変なことがたくさんあります。お客様にはもちろん製品を使って笑顔になっていただきたいですし、社員もHACCIで過ごした時間が宝物だったと思えるそんな会社にしていきたいです

Profile

戸塚光彦

約1万年以上前からハチミツを採取した記録があるといい、「ハチミツの歴史は人類の歴史」という言葉もあるくらい、ミツバチは人間にとって身近な存在だ。
働きものに見えるハチ。でも、一定割合は必ず怠け者になるというところに、強い親近感を抱く。

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