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『ザ・クラウン』シーズン5 火災、不倫、離婚…エリザベス女王の試練の始まりを描く

エリザベス女王を中心とした4世代の英国王室メンバーが勢ぞろい

動画配信サービス・Netflix(ネットフリックス)のオリジナルドラマ『ザ・クラウン』のシーズン5が11月から配信された。このドラマは、9月に崩御した故エリザベス女王を中心としたイギリス王室の“明と暗”を描いた傑作だ。

女王が天に召されたことで、配信済みのシーズン1~4に再び注目が集まったというけれど、王室ファンならずとも、深遠なストーリーと映像美にノックアウトされる人が多いのではないだろうか? あくまでフィクションではあるが、事実をベースにしているエピソードが多く、存命の王室メンバーをここまで赤裸々に生々しく描いていいのかと、初めて見たときはドギマギしたもの。

リアリズムと、構成の妙と、美しさと、そして本人そっくりのキャストと、どれをとっても文句ナシのクオリティであり、筆者自身も何度視聴したかわからないくらいハマった。だからシーズン5の配信を今か今かと待ち構えていたのだが……。

一言で表すと「重い」のだ。

シーズン5は晩秋 いてつくような寒さを暗示するドラマ

先ほど王室の“明と暗”と書いたが、本シリーズは“暗”の部分が多く、季節に例えるなら晩秋のような冷たい空気をまとう。

シーズ1・2でエリザベス女王を演じたクレア・フォイ。とてもキュートで聡明
シーズン1・2でエリザベス女王を演じたクレア・フォイ。とてもキュートで聡明

シーズン1・2は女王の幼少期から30代半ばごろまでの時代を描いているので、春から夏のような勢いがあった。主要人物は皆若く、たとえもめ事が起こったとしても若さゆえの前向きさがまぶしい。シーズン3・4は、中年期以降の女王とその時代を描いているが、まだまだ女王には若さの名残がある。皇太子夫妻のトラブルに対しても「どうにかなるでしょ」と空気を読まない鈍感ぶりは、この時点ではご愛嬌。こちらも季節で言えば、初秋の柔らかな日差しと実りを感じる。

しかし、ズーンと重さを増したシーズン5は、女王65歳からのエピソードの展開だ。今後訪れるであろう、いてつくような寒さを我々に暗示している。

シーズン5でエリザベス女王を演じる、イメルダ・スタウントン。地味だが安定感抜群。イギリスではかなり人気がある女優
シーズン5でエリザベス女王を演じるイメルダ・スタウントン。地味だが安定感抜群。イギリスではかなり人気がある

それもそのはず、エピソード1から嵐の予感が。

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実話⁉次から次へと降りかかるトラブル

チャールズ皇太子と故ダイアナ妃の不仲は決定的になり、長男のウィリアム王子が両親のいさかいをそばで案ずる様子が悲しい。しかも皇太子だけでなく、彼の妹のアン王女や弟のアンドルー王子夫妻の離婚も確実となった。さらには女王一家が愛してやまない王室専用船の修理費用を税金から捻出することを政府が拒否し、思い出がいっぱいの船が退役。女王が週末を過ごすウィンザー城が火災にあうなどと、不運が次から次へと降りかかってくる。

シーズン3・4でエリザベス女王を演じる、オリヴィア・コールマン。お茶目で、空気を読まない時も
シーズン3・4でエリザベス女王を演じる、オリヴィア・コールマン。お茶目で、空気を読まない時も

王族だって人間。庶民と同様に、離婚や火災といったトラブルに心を痛めるのは当然だ。後年、英国王室歴代最長在位を誇り支持率が抜群に高かった女王も、ドラマに描かれた1990年代は「浪費家で古臭い女王なんか要らない」と新聞の一面でたたかれた。厄災だらけの1992年のクリスマススピーチで、「アナス・ホリビリス」(ラテン語で“ひどい年”)と女王は総括したほど。彼女は決して心の動揺を人前で見せることはないし、基本的に私見を述べることもない。そんな冷静沈着な女王でさえ心が折れそうになった時期。それがシーズン5と言える。

『ザ・クラウン』では、登場人物が同じでも、演者が年代によって違う。女王役でいえば、若き日をクレア・フォイ、中年期をオリヴィア・コールマンと、どちらも甲乙つけがたいくらい魅力的に役柄を演じた。この2人に比べると地味で華やかさには欠けるが、シーズン5ではイメルダ・スタウントンが、安定感抜群でどんなときもどっしりと構える女王を演じきった。

さらに出色のキャラクターを挙げるとすれば。ドミニク・ウェスト演じるチャールズ皇太子と、エリザベス・デビッキ演じるダイアナ元妃だ。

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陰の主役 チャールズ皇太子とダイアナ元妃のキャストにも注目

この2人は、シーズン5の陰の主役コンビと言っていい。まずはドミニク・ウェスト。あまり知られていないが、チャールズ皇太子は学究肌で地道に研究文献を著し、「ザ・プリンス・トラスト」という名の慈善事業で多くの若者の就労支援を長年継続。また、不倫相手のカミラ・パーカー=ボウルズ夫人に、ポルノまがいの言葉をささやく電話を盗聴されて大恥をかいたのに、彼女への思いを貫こうとする。その姿勢は、母親譲りのハートの強さを感じる。そんな皇太子をナチュラルに演じたドミニク・ウェストは、(失礼ながら)実際の皇太子よりもハンサムでセクシーだった。

カミラ夫人への愛を貫く、チャールズ皇太子を演じるドミニク・ウェスト
カミラ夫人への愛を貫く、チャールズ皇太子を演じるドミニク・ウェスト

対するエリザベス・デビッキは、ダイアナ元妃の魂が乗り移ったかのよう。デビッキは190センチ超えの高身長の持ち主なので、ウエストの高さよりも頭一つ大きいことにやや違和感があった。実際にはダイアナ元妃が夫に気を使ってハイヒールをはかず、同じくらいの見た目だったからだ。しかし三白眼(下まぶたの白眼部分が多い目)気味の上目遣いで相手を見つめる物憂げなさまは、まさにダイアナ元妃! もちろん、元妃が着用した有名な黒のリベンジドレス(夫がカミラとの不倫を認めたことに対抗して着たといわれる大胆なもの)をはじめとした一連のファッションも見応えあり。

ダイアナ元妃の視線、表情などがそっくり過ぎ……。演じるのは、エリザベス・デビッキ
ダイアナ元妃の視線、表情などがそっくり過ぎ……。演じるのは、エリザベス・デビッキ

しかし、夫と別居後に心臓外科医のハスナット・カーンに惹かれていくフワフワとした危なっかしさ(ハスナットは世間のプレッシャーに耐えられず、ダイアナのもとから去ってしまう)、病人など弱者に対する過剰なほどの愛情、常に孤独に苛まれているような後ろ姿など、ダイアナ元妃の不幸に胸が押し潰されそうになる。その後パリで悲惨な事故死を遂げてしまうという、彼女の最期を知っているだけに――。

ともすれば、ダイアナ元妃に同情的になってしまうが、チャールズ皇太子も初恋のカミラ夫人とは諸々の事情で結ばれず、次期国王なのにマスメディア受け抜群のダイアナ元妃の二番手に常に甘んじなければならないとは気の毒でしかない。結局、この夫婦は英国王室という特殊な“組織”の犠牲者であったことを知る。

シーズン5の最後は、ダイアナと共にパリで事故死したエジプト人富豪、ドディ・アルファイドと出会う場面で締めくくられる。

当然ながら『ザ・クラウン』は全シーズン通してストーリーが完結する。まだ見ていない人には、ぜひシーズン1から通して見てほしい。禍福はあざなえる縄のごとし。いいことも悪いこともすべての事象が連動していて、意味があることがわかる。“アナス・ホリビリス”を乗り越えたことで、チャールズ皇太子もアン王女も幸せな再婚をすることができたし、女王は英国王室史上で希代の名君と評価された。ただしダイアナ元妃の事故死を除いては。

さて、次のシーズン6は厳冬となるか、それとも春の訪れの予感はあるのか?
※登場人物の敬称はドラマに準じています。

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あらすじ
若くして即位したエリザベス2世。政治情勢や家族をめぐる問題に向き合いながら、苦悩と葛藤の中で国を治めた英国君主の姿を、実話に着想を得てドラマ化したフィクションシリーズ。
出演:イメルダ・スタウントン、ジョナサン・プライス、レスリー・マンヴィル
原作・制作:ピーター・モーガン
(公式サイト:Netflix「The Crown」より)
関連情報
  • Netflixシリーズ「ザ・クラウン」シーズン1~5:独占配信中

Profile

東野りか(ひがしの・りか)

ファッション系出版社、教育系事業会社で編集者として活動後、フリーランサーライターとなる。以降、国内外の旅、地方活性とローカルビジネス、アーティストや起業家のインタビューを中心に雑誌やウェブ等で執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「人間の生きざま」「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス2世と英国王室」。エリザベス女王崩御後、彼女のDNAを色濃く受け継ぐチャールズ3世の研究をスタート。

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