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映画『僕らの世界が交わるまで』で監督デビューした、ジェシー・アイゼンバーグにインタビュー

© Karen Kuehn

『グランド・イリュージョン』(2013)や『ソーシャル・ネットワーク』(2011)で知られる俳優ジェシー・アイゼンバーグが、2024年1月19日公開の『僕らの世界が交わるまで』で長編映画監督デビューを果たした。

エマ・ストーンが、夫と共に設立した映画制作会社とオスカー常連となっているA24が制作・北米配給を手掛ける本作は、DV被害に遭った人々のためのシェルターを運営する社会奉仕に身を捧(ささ)げる母と、自分のフォロワーのことしか頭にないZ世代の息子の不器用だけど愛おしい、共感が止まらない複雑な関係性を丁寧に紡ぐ誰もが身近に感じられるヒューマンドラマだ。

本作で初めての監督のみならず脚本も手がけたジェシーに、見どころや込めた想いを聞く中で、彼の素敵な人柄も見えてきた。質問するたびに「素晴らしい質問をありがとう」と優しく微笑むジェシー。初監督を経て変わった意識、親子に対する斬新で深い考察に、自分の家族との向き合い方を考えさせられる。

承認欲求に苦しんだ俳優。監督をして意識が変わった

「僕は自分が出演した映画は一切見ない」と語るジェシー。自身の作品を編集中は、劣等感に苛(さいな)まれるから他の映画も見ないそうだ。そんな自己肯定感が低いジェシーが変わったきっかけとは……?

僕らの世界が交わるまで
© 2022 SAVING THE WORLD LLC. All Rights Reserved.

━━本作が生まれた経緯は?

僕はもともと舞台の脚本を書いてきた。ただ、映画俳優としても現場経験をたくさん積んできていることもあり、その経験の中で「いつか映画を監督してみたいかもしれない」という気持ちが芽生えた。

俳優業を通じて多くの優れた監督と組んできたけど、なかでも、『アドベンチャーランドへようこそ』のグレッグ・モットーラが印象に残っている。僕が撮影中にパニックを起こしたことがあって「ごめん、訳がわからなくなった。テイクが台無しだね」と謝ったら、「そんなことはない。役者は心をさらけ出すのが仕事なのだから、しょっちゅうパニックを起こさない方が不思議だ」と言ってくれたんだ。グレッグは俳優の感情やプロセスを尊重する現場を作ってくれたので、僕は「完璧でなくてもいいのか」と肩の力を抜くことができたんだ。

━━監督をしてみて俳優としてのあり方に変化はあった?

監督をする前、現場にいる時「監督は僕のことを嫌ってるんじゃないか……」とものすごく心配していたんだ。でも自分が監督をしてみて、監督はそんなことは考えていないと思った。だから、僕が現場で感じたいと思っていた監督からの承認はいらないとわかった。特にジュリアン・ムーアが本当に素晴らしかった。自分が監督した作品に出演してくれた素晴らしい俳優を見て、改めて演技の価値の大きさに気づいたよ。

求めている愛はいつも目の前にある。
理想通りにならない家族とどう向き合う?

僕らの世界が交わるまで
© 2022 SAVING THE WORLD LLC. All Rights Reserved.

人は理想の親子関係を築けないと、他人に理想を見出そうとしてしまうと考察するジェシー。息子が恋する女の子は自身の妻がモデルで、母親・エヴリンのように知的で活動家だ。母親はシェルターにいる理想的な青年に息子のように接しては必要以上におせっかいを焼く。お互いに目の前にあるはずの愛を他人に求めてしまう親子を通して、家族との向き合い方の最適解を丁寧に描く。

━━息子・ジギーついて教えてください。

ジギーはオンライン・ミュージシャンという、非常にニッチな世界で成功を遂げている青年だ。世界各国にいる2万人のフォロワーを相手に音楽ライブを配信をしている。少しばかり自分を過大評価しているけど、リアルな学校生活では存在感がなく、彼の活動を知る人もいない。両親も興味を示してくれないんだ。

そんなジギーは自己肯定感が低いから学校で自慢ばかりする。自慢ばかりする人に遭遇すると「誰の愛が欲しかったの?」と聞きたくなる。ジギーはそんな青年なんだ。ネット上では、出会うことのない人たちがつながることができるから、それはそれで素晴らしいのだけど、リアルで周りにいる人たちから断絶されてしまうという危険性も孕(はら)む。自分の小さな世界に埋没することになるんだ。

僕らの世界が交わるまで
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━━真逆の親子関係を描く本作に込めたメッセージは?

僕が思うに、家族は自分で選べない。一緒に生きていくしかない。できれば家族を愛することができたらいいけれど、家族を愛するということは他の人を愛するよりも大変で、時間がかかることだと思う。なので、この映画のキャラクターは他人に投影して愛を追い求める。家族というのは逃れられない存在。だからこそ正面から向き合うことが大切だと考えている。

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関連情報
  • 『僕らの世界が交わるまで』
    公開日:2024年1月19日(金)
    監督・脚本:ジェシー・アイゼンバーグ
    製作:エマ・ストーン、デイヴ・マッカリー、アリ・ハーティング
    出演:ジュリアン・ムーア、フィン・ウォルフハード 他
    配給:カルチュア・パブリッシャーズ
    公式サイト:https://www.culture-pub.jp/bokuranosekai/

Profile

ジェシー・アイゼンバーグ

1983年、アメリカ・ニューヨーク出身。高校時代から演劇を始め、一躍有名になったきっかけはデヴィッド・フィンチャー監督の映画『ソーシャル・ネットワーク』(2011)。アカデミー賞はじめ多くの賞にノミネートされ、話題となった。映画『ゾンビランド』(2010)、『グランド・イリュージョン』(2013)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)などで俳優としてのキャリアを積む。現在は脚本の執筆や映画監督も手がけ、マルチに活躍している。

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