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怖いだけじゃない! 社会派ホラー映画で注目されるジョーダン・ピール監督の4作品

「アス」/¥2,075/発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント/(C) 2019 Universal Studios and Perfect Universe Investment, Inc. All Rights Reserved.

アメリカの映画監督、脚本家、映画プロデューサー、俳優、コメディアンでもあるジョーダン・ピール。彼の生み出すホラー映画は、人種差別をはじめとする社会問題を含みながらも、ホラー作品としてのおもしろさを確立している。猛暑の続く夏、背筋がゾクッとする恐怖へと導かれるジョーダン・ピール監督の作品を紹介しよう。

現代の複雑化した人種差別を描く『ゲット・アウト』

ホラー映画 ゲットアウト ジョーダン・ピール
『ゲット・アウト』/¥2,075/発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント/(C) 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.

まず1本目に紹介するのは、ジョーダン・ピールがアカデミー賞脚本賞を受賞した衝撃作品『ゲット・アウト』(2017年)。ストーリーは、主人公の黒人男性が、白人女性の恋人の家族にあいさつに行くところから始まる。彼女の家族は快く出迎えてくれたのだが、使用人はみな黒人であり、どこか奇妙な行動をとっていた。

翌日、彼女の家族に招待されたパーティーは白人ばかりで、再び違和感を覚える主人公。そこで黒人の若者を見つけた主人公、思わず写真を撮ろうとフラッシュをたいた瞬間、その若者が突然「出ていけ!!」と鼻から血を流しながら襲いかかってくる――。何かがおかしい、異色の怖さに加えて予想のできない展開が待っている。

公開された2017年当時のアメリカは、オバマ政権が続いており、表向きには黒人差別はなくなっているように見えた。「ゲット・アウト」は、あからさまな黒人差別ではなく、オバマ政権を応援し、人種差別をしないと言いながらも、黒人への対応を変えていない偽善行為、皮肉なことに人種差別が終わっていない現代の複雑化した状況を巧妙に表現している。トランプ政権発足が決まり、内容が変わったとされるエンディングにも注目だ。

ジョーダン・ピールの母親と妻も白人であるが、作中にはそんな家族構成であっても黒人差別を受けてしまう彼自身の背景も描かれており、現代における人種差別の姿を当事者として表現している。

最新作のSFホラー『NOPE/ノープ』

ホラー映画 NOPE ノープ ジョーダン・ピール
『NOPE/ノープ』/¥2,075/発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント/(C) 2022 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

謎の巨大飛行物体と“最悪の奇跡”が描かれたSFホラー『NOPE/ノープ』(2022年)。不慮の事故で亡くなった父親から継いだ田舎の牧場を営む主人公のOJは、父親の死亡から半年たっても、その事故に疑問を持っていた。なぜなら、その事故の死因は空から落ちてきた飛行機の部品との衝突によるものとされていたからだ。そんな“最悪の奇跡”が起こるものなのか? 

そして何よりOJは、事故当時に目撃した奇妙な飛行物体を忘れられずにいた。OJから話を聞いた妹のエメラルドは、その奇妙な飛行物体を撮影し“バズり動画”を世に放つことを思いつく。しかし、その巨大飛行物体の正体は絶対に見てはいけないものだった――。“最悪の奇跡”が次々に街を襲うことになる。

“バズり動画”の撮影から始まるホラー。この作品を通してジョーダン・ピールは、法律上では人種差別など存在しなくなったものの、白人警察官の取り締まりによる黒人殺害のケースが絶えないなど、白人が黒人を見る目は変わっていない事実を風刺する。見られる側からの復讐をホラーとして描いた、ジョーダン・ピールの挑発ともいえる作品だ。

格差社会を描写したサプライズホラーの『アス』

ホラー映画 アス us ジョーダン・ピール
『アス』/¥2,075/発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント/(C) 2019 Universal Studios and Perfect Universe Investment, Inc. All Rights Reserved.

続いて、ジョーダン・ピールの驚異のホラー作品が『アス』(2019)。少女アデレードは、両親と訪れたカリフォルニア州サンタクルーズの遊園地のミラーハウスに迷い込み、そこで自分とそっくりな少女に遭遇し、衝撃により失語症となってしまう。

場面は現代にうつり、成長したアデレードは失語症を克服し、家族と夏休みを過ごすために再びサンタクルーズを訪れるのだが、そこで起こる怪奇現象により、過去のトラウマがフラッシュバックする。その夜、家の前にアデレードと家族にそっくりな“わたしたち”(ドッペルゲンガー)が現れ、襲いかかってくる。一家は生き残りをかけて、アメリカ政府の実験により生まれていたクローン(ドッペルゲンガー)との戦いを強いられることになる――。

あまりにも怖いドッペルゲンガーが登場する作品なのだが、「苦しみや犠牲」と「幸せや富」は表裏一体であり、私たちは知らない間に誰かの苦しみと犠牲の上に立って生きているという、現代の格差社会、また、結局どこに生まれたかで人生が大きく変わってしまう階級社会への風刺が描かれている。

偏見の恐ろしさが襲う『キャンディマン(2021)』

ホラー映画 キャンディマン(2021) ジョーダン・ピール
『キャンディマン(2021)』/¥2,075/発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント/(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and BRON Creative MG1, LLC. All Rights Reserved.

“鏡に向かってその名を5回唱えると死ぬ”という都市伝説が設定となった、1992年の人気作品『キャンディマン』をジョーダン・ピールが2021年にリメイクした。リメイクではあるが、現代風にアップデートされ新たな視点で描かれており、高く評価された作品のひとつ。

シカゴに存在した公営住宅「カブリーニ=グリーン」地区では、鏡の前で「キャンディマン」と5回唱えると、蜂の大群を引き連れた殺人鬼が現れるという都市伝説があった。公営住宅がすでに取り壊された現代、恋人と新設された高級コンドミニアムに引っ越しをしたヴィジュアルアーティストのアンソニーは、創作活動の一部としてキャンディマンの都市伝説の謎を調査していた。すると公営住宅の元住民だという老人に、その都市伝説の裏に隠されていた、キャンディマンのモデルとなった悲惨な男の話を聞かされる。

キャンディマンの呪いの始まりは、「偏見」「差別」によるものだった。ジョーダン・ピールは、1992年の『キャンディマン』のアップデートとして、黒人の関係性をより強く描写。偏見・差別によりキャンディマンとなり呪いで復讐をした男だが、現代社会における黒人への偏見・差別も同様であり、キャンディマンのような存在になり得るという現実世界での恐怖までも風刺されている。

ジョーダン・ピールの開拓した新たなホラージャンルは、視聴者までも作品の当事者にさせる恐怖があるのかもしれない。

Text: Saaya Hirade

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