寒くて顔も出せません
フランスとアルゼンチンの意外な関係【鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」】
2022.12.2
サッカーのワールドカップの決勝戦は、フランスとアルゼンチンの戦いに! じつはこの2つの国には、サッカーの強豪国という共通点だけでなく、歴史的に意外なつながりがある、というのは、博覧強記のフランス文学者、鹿島茂さん。愛猫グリ(シャルトリュー 10歳・♀)とともにフランスとアルゼンチンにまつわるエピソードをお届けします(本記事は鹿島茂:著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(中公文庫)から抜粋し作成しています)
銀座の店で大評判に
内田魯庵(ろあん)の『魯庵の明治』は、様々なモノについての思い出がいっぱい詰まった本で、私のようななんでも屋の物書きにはありがたいことこの上ないが、なかでも日本における毛糸の事始めについて語った小文は興味深い。
明治12、3年ごろ、銀座の伊勢屋という商店が、横浜の商館の見本をひと山まるごと引き取ったところ、中に毛糸玉が入っていた。何に使うのか見当がつかないので、店の棚に置いておくと、通りがかりの外国婦人が目ざとくこれを見つけて、意外な掘りだし物をしたように大喜びして買って帰った。
その後、話を伝え聞いた外国人の女性が次々に毛糸玉を求めにきたので、伊勢屋は自分の店のレッテルを張りつけて売りだしたという。
このエピソード一つを取ってもわかるように、欧米の女性にとって、毛糸は寒い冬に備えて家族に暖かい衣服を用意するために欠かせない大切な素材だった。
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