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名作椅子100脚がずらり。デザインの変遷をたどる展覧会が3都市を巡回

「日本橋髙島屋S.C.」開催時の1階エントランスのディスプレイ。画像:Herman Miller Japan

世界的な椅子研究家のコレクションから100脚の名作椅子が一堂に会する展覧会が、5月5日(日)まで開催されている。20世紀の「プロダクトデザイン史」を俯瞰できる、貴重な展示は必見!

個人コレクションから選び抜かれた100脚

半世紀、そして100年を経ても色あせず、なぜこんなにも美しいと感じるのだろう。
東京「日本橋髙島屋S.C.」で幕を開け、連日の盛況を博した「椅子とめぐる20世紀のデザイン展」が、大阪、名古屋と5月初旬まで巡回中だ。

この展覧会は、椅子研究家・織田憲嗣(のりつぐ)氏の膨大なコレクションから選び抜かれた100脚の名作椅子をストーリーテラーに、20世紀という激動の時代におけるデザインの変遷をたどる旅だ。19世紀から20世紀への扉を開くアール・ヌーヴォーから1920年~1930年代に「モダンデザイン」の礎を築いたバウハウス、デザイン黄金期というべきミッドセンチュリー、1960年代に開花したイタリアン・モダンと、キラ星のような名作たちによって「プロダクトデザイン史」を辿ることができる。

会場は年代ごとに4ブロックに分かれ、各時代を象徴する椅子が展示されている。

食器やテーブルウェアなど、ライフスタイルの変遷も

イームズのプライウッドチェアやハンス・J・ウェグナーのアームチェアなど、誰しも必ずや目にしたことがあるだろう歴史的名作に出会えるのはもちろん、一つの部屋にチェアだけでなく食器などのテーブルウェアやキッチン用品、家電などが展示され、ライフスタイルとして時代を振り返ることができるのも特筆すべき点だ。

たとえば「ノルディック・モダンのティーパーティー」と題された一画では、ヤコブセンやウェグナー、モーエンセンらがデザインしたテーブルセットにスティグ・リンドベリの「ビルカ」やカイ・フランクの「キルタ」など不朽の名作というべき食器シリーズがディスプレイされており、テーブルウェア・ファンにとっても心躍る光景だろう。これらもすべて織田氏のコレクションと聞き、感嘆するばかりだ。

カーザ・カルベットのアームチェア アントニ・ガウディ c.1900 撮影:Kentauros Yasunaga
食器シリーズ「セレス」 テオ・シュムッツ=バウディス 1913 撮影:Kentauros Yasunaga
バルセロナ・チェア ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ 1929 撮影:Kentauros Yasunaga

名作家具を生んだ女性デザイナーに着目

また1920年代、かのル・コルビュジェに大いなるインスピレーションを与えたアイルランド出身のデザイナー、アイリーン・グレイや、チャールズ・イームズの良きパートナーとして多くの作品を世に送り出すほか、「ハーマン・ミラー」でのイームズ家具の広告デザインのほとんどを手がけるなど、家具からグラフィックまで幅広く功績を残したレイ・イームズ。そしてエーロ・サーリネンやハリー・ベルトイア、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエらの名作を生み出し、自身もデザインを手がけた「Knoll」創業者の一人、フローレンス・ノルといった、1920年代~ミッドセンチュリーのデザイン黄金期に大きな足跡を遺した女性デザイナーたちに着目し、彼女らの“目線”で鑑賞していくのも面白い。

「物の価値は、創造に込められた愛の深さで決まる」とは、アイリーン・グレイが遺した言葉だ。

これは織田氏が大切に語り続ける「デザインとは、人を幸せにするために生まれるもの」という言葉にも繋がっていく。

チェアLCW チャールズ&レイ・イームズ 1945 撮影:Kentauros Yasunaga
チューリップ・アームチェア エーロ・サーリネン 1957 撮影:Kentauros Yasunaga
食器シリーズ「TAC」 ヴァルター・グロピウス/ルイス・A・マクミレン 1968 撮影:Kentauros  Yasunaga

時代を超えて愛されるデザイン

2度の大きな戦争を経験した20世紀という稀有な100年間。第2次世界大戦中、アメリカ海軍の負傷兵のための医療器具としてチャールズ&レイ・イームズ夫妻が開発したプライウッド(積層合板)の副え木「レッグ・スプリント」が、のちの彼らの代表作、ラウンジチェア「LCW」などのルーツとなったのは有名なエピソードだ。

19世紀から興った工業化による大量生産、世界的な戦争が一つのきっかけとなり劇的に進歩した科学。そしてそこから生まれた新たな技術や新素材。こうした目くるめく時代に、作り手たちはきっと自らの作品に未来を投影し、人々の生活がより豊かに、幸せなものになるよう熱量を込めてデザインしたはずだ。

会期中、注目を集めたショウウィンドウのディスプレイ(「日本橋髙島屋S.C.」)画像:Herman Miller Japan

人が身体を直接委ねることから、最もフィジカルな家具と言われる「椅子」に、時代性が現れるのも納得がいく。未来の生活のために熟考しデザインされたものだからこそ、時を経てもなお美しいと感じるのだろう。少し飛躍するけれど、展覧会を観覧していて、ふと「ファッションは廃れるが、スタイルは永遠だ」というサンローランの言葉が思い浮かんだ。

家具デザインを知る入門編としても意義ある展覧会。ぜひ足を運んでほしい。

text: Yoko Fujimori

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関連情報
  • 「椅子とめぐる20世紀のデザイン展」

    大阪
    会期:327日(水)~414日(日)
    会場:大阪髙島屋 7階グランドホール
    住所:大阪府大阪市中央区難波5-1-5
    開館時間:10:0019:0018:30最終入場)*最終日は16:30最終入場

    名古屋
    会期:418日(木)~5月5日(日・祝)
    会場:ジェイアール名古屋タカシマヤ 10階特設会場
    住所:愛知県名古屋市中村区名駅1-1-4
    開館時間:10:0020:0019:30最終入場) *最終日は16:30最終入場

    入場料:一般1,200円(1,000円)、大学・高校生1,000円(800円)、中学生以下無料
    )内は前売り料金
    URL : https://www.takashimaya.co.jp/store/special/20thcenturychair/index.html

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