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【国際女性デー】リーダーシップを発揮する女性からのメッセージ。駐日英国大使 ジュリア・ロングボトムさん

3月8日は「国際女性デー」。1904年3月8日、ニューヨークで女性労働者が参政権を求めてデモを行ったことが起源となり、1975年に国連によって制定された日だ。多様性や違いを受け入れ、男女を問わず生きやすく、そして活気ある社会を作っていくにはどうすればいいかをみんなで考える日であり、世界中で様々なイベントやデモなども行われる。各界で活躍する女性たちにそれぞれの取り組みや思いを聞いた。

イギリスで起きた変化から学べることは

1990年、駐日英国大使館政治部の二等書記官として、初めて東京に赴任しました。政治家や記者と交流するなかで、当時の私は目立っていたと思います。女性の少ない世界で、20代の外国人女性、しかも2度の出産から復帰したところでしたから。

30年ほど経った今、日本は男女平等に関して確実に進歩していると思います。女性の労働参加率は上昇し、女性役員のいない企業の割合は減少しました。2023年の性的同意に関する法改正も、男女平等な社会の実現に貢献するものとなるでしょう。しかし、世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数を見ると、日本は2023年には146カ国中125位で、2006年の開始以来、過去最低の順位となりました。他国の進歩が速いのです。

イギリスでは、この30年で大きな変化がありました。女性が仕事やルールに適応することを期待された時代から、雇用主側が全ての労働者の利益のため、環境を整備する時代へ。2017年に賃金格差の報告が義務付けられ、賃金格差は約5分の1に減少しました。イギリスでは、民間企業が変化を主導しているという特徴があります。ビジネスリーダーが、事業の成功には職場の公正さが不可欠だと理解しているのです。政治の世界でも3人目の女性首相が誕生し、2023年には国会議員の35%が女性になりました。社会を代表するわけですから、50%になるまでは立ち止まってはなりません。

日本のジェンダー・ギャップとして目立つのは、政治参画と無報酬労働ですね。政治参画については、まず女性候補者を擁立することでしょう。候補者の一定数を女性に割り当てるクオータ制に関しては、イギリスは制度として法律で定めるより、各組織が自主的な目標を持つほうが有効だと捉えています。制度化されると、選ばれた人が批判されやすくなりますし、逆差別という見方もあるためです。

国連のデータによれば、日本の女性が無報酬の家事労働に費やす時間は、男性の4.8倍(2010年から2019年までの集計)。イギリスでも1.8倍で不均等なため、男女ともに取得できる育児休暇制度を導入し、労働の選択肢と柔軟な働き方を保証することで、この問題に取り組んでいます。

ジェンダーの問題には社会的、文化的背景があり、人々の考え方と態度が変わるには時間がかかるものです。今の日本は男女平等の実現に向けた過渡期にあると思います。政府ができることは、例えば税制の改革です。「103万円の壁」は、低収入の配偶者が、所得税の配偶者控除を活用するため、収入を一定額まで抑えることにつながっています。低収入の配偶者はほとんどが女性です。イギリスでは1990年に税制を変更し、各個人がそれぞれの立場で課税されるようになりました。

「性と生殖に関する健康と権利」に関しては制度的な変化を望みます。日本はG7で唯一、中絶を希望する際、一部の例外を除いて夫の同意を得ることが義務付けられている。これには衝撃を受けます。また、性暴力事件の95%以上が警察に報告されていません(2023年のUPR報告書から)。このような統計は女性の人生や未来、希望に影響を与えます。

ジェンダー平等の社会とは、性別によって束縛されることなく、目標を持てる社会。妨げとなる法や制度の障壁、態度に取り組むことが重要だと考えます。女性にも男性と同じ権利があり、どこまでも進んでいくことができる。日本の女性の中には、置かれた環境を常識と捉え、差別されていることを十分に理解していない人もいるかもしれません。社会が女性の声に耳を傾け、変わっていくためには、給与格差やハラスメントの経験などについて、お互いに話したり支援を求めたりしましょう。女性の運命として受け入れないでください。自信を持って、自分の未来を築いてください。

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Profile

ジュリア・ロングボトム Julia Longbottom

1963年生まれ。1986年にケンブリッジ大学卒業後、英国外務省に入省。1990年~1993年に駐日英国大使館二等書記官、2012年~2016年に駐日英国大使館公使として東京に駐在する。2016年~2020年に英国外務省領事局長、2020年に英国外務省コロナウイルス対策本部長を務める。2021年3月から現職。日英の外交関係で初となる女性の駐日大使。

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