未完の聖堂、完成近づく「ガウディとサグラダ・ファミリア展」
サグラダ・ファミリア聖堂、2022年12月撮影 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família
着工から140年余が過ぎ、未完の聖堂と呼ばれながらも、すでに世界遺産に登録されている、スペイン・バルセロナにある「サグラダ・ファミリア聖堂」。コロナ禍で工事は一時ストップしたものの、いよいよその完成が見えてきた。2026年の「イエスの塔」の完成予定を前に、東京国立近代美術館では、100点を超える模型や図面、写真等でひもとく展覧会を開催。ドラマティックで壮大な建築物がどのようにして完成に向かっているのだろう。展覧会の見どころを東京国立近代美術館の企画課長、鈴木勝雄さんにお伺いした。
天才建築家ガウディの苦労や努力も見える展覧会
サグラダ・ファミリア聖堂については、中央に位置する六つの塔のうち、2021年にマリアの塔が完成したことが大きなニュースになった。続く2022年12月にはルカとマルコの塔が完成。残るマタイとヨハネの塔は2023年11月に、聖堂中央の最も高い塔となるイエスの塔は2026年までの完成を予定している。
展覧会の大きな見どころは、「ガウディの創造の源泉を紐とき、たくさんのアイデアや挑戦がサグラダ・ファミリア聖堂にどのように集結していくのか、そのプロセスをたどれることです。そのプロセスにあるのは、天才の持つひらめきや成功だけではありません。想像を絶する年月をかけた努力や苦労もあります。本展では、そんな作り手の試行錯誤を感じながら、今私たちが目にしている形にたどり着くまでの軌跡を知ることができます」と鈴木さん。
ガウディが手がけた建築は、そのほとんどが国宝や重要文化財に指定され、7点の建築は世界遺産に登録されている。冒頭では、これらの建築を紹介しながら、若き日のガウディが建築家になるまでの歩みをたどり、徐々にサグラダ・ファミリア聖堂にフォーカスしていく。
貴重なオリジナル模型も公開
さて、ガウディがサグラダ・ファミリア聖堂の2代目建築家であることを知っているだろうか?
「もしも初代建築家のままだったら、100年を超える年月をかけることなく、すでにサグラダ・ファミリア聖堂は完成しているでしょう。ガウディが2代目建築家に就任したことでデザインは大きく変容します。聖堂の内観を『森』に見立てて設計したガウディは、図面だけでなく膨大な模型を作りながら、そこに修正を加えて設計を固めていきました」
「聖堂内で圧巻の存在感を放つ柱はまるで樹木のように上部で枝分かれしたデザインです。展覧会では、この柱のオリジナル模型も展示されます」
そして、ガウディ以後。ガウディの意志を受け継いだたくさんの人が、サグラダ・ファミリア聖堂の建設を継続していく。その中には、日本人彫刻家の外尾悦郎もいる。本展では、実際に聖堂の「降誕の正面」に設置されていた石こう像「歌う天使たち」も公開されている。
完成した未来に思いをはせて
「ガウディ自身は、自分が生きている間にサグラダ・ファミリア聖堂が完成するとは考えていませんでした。次の世代に受け継いでいくにあたり、自分の頭に描いたものから何ひとつ外れることなく作ってほしいという思いではなく、むしろ新しい世代のアイデアが加えられることに、とても寛容な姿勢を見せていたんです。そのほうが、建物としても豊かなものなるだろう、と」
「ガウディの遺伝子」と称した展覧会の最終章では、ガウディの建築の思想やアイデアが現代の建築にどのような影響を及ぼしているのかを考えていく。
「展覧会というと、すでに完成した作品を公開することが多い中で、サグラダ・ファミリア聖堂は、現在も建設中です。これまでに歩んできた建設のプロセスだけでなく、これから完成に向かう未来に思いをはせながら、さまざまな作品を鑑賞していただけたらと思います」
聖堂の美しさや未完であるというドラマに引かれる人が多いのだろうか、建築の展覧会としては珍しく女性が多く訪れているのもこの展覧会の特徴だという。2026年のイエスの塔の完成が迫る中、ぜひ展覧会に足を運んでみてほしい。※滋賀、愛知へ巡回予定。
text: Noriko Oba
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