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【三澤彩奈のワインのある暮らし】女性醸造家が語る「夏に楽しむロゼ」

醸造したワインを試飲する三澤彩奈さん

「甲州」の名を世界に広めた女性醸造家の三澤彩奈さんが、ワインのある暮らしを語ります。ワインがもたらす豊かさが伝わってきます。

ブドウの葉も梅雨に濡れ、緑が一層深まっていきます。
梅雨も明け、陽は驚くほどのエネルギーに満ちていて、山梨の夏が本番を迎えました。

皆様、はじめまして。ワイン醸造家の三澤彩奈と申します。

山梨のワイナリーに生まれ、フランスと南アフリカで学んだ後、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチンなどの南半球のワイナリーで修業を重ね、今に至ります。

実家のワイナリーの日々、ブドウ畑の便り、海外での思い出話など、ささやかで愛おしいワインのある暮らしを綴っていきたいと思いますので、どうぞお付き合いください。

今年もロゼの季節がやってくる

山梨県・勝沼の鳥居平農場 日本ブドウの発祥地として古くから高品質のブドウを生み出す地域として知られる

私たちワイナリー一家は、夏が近付くと、「今年もロゼの季節がやってくる!」とわくわくするもの。留学中、6月の晴天率が高いフランスでは、夏が長く感じられました。フランス人は太陽が大好き。抜けるような青空が広がると、一斉に外のテラスで食事とワインを楽しむ姿が見られました。その時のお供になっていたのがロゼワインでした。

5年ほど前、世界はロゼワインブームに沸きました。世界のワイン市場の中心と言われるロンドンのワインショップでは、一番目立つ棚にロゼ、ロゼ、ロゼ。ニューヨークを訪ねれば、ルーフトップバーでロゼを飲むのが最高にクールだと言われるような時代でした。ワイナリーの店頭で接客しているとき、お客様から「ロゼはありませんか?」と聞かれると、ワインに詳しい方かもしれないと予想したものでした。ピンクワインブームは、一時的なものとして過ぎ去るのではなく、新しい価値観の中で定着したように感じています。

ロゼワインと一言で言っても、造り方も様々で、淡いピンク色のロゼから、赤ワインに近い色調のものまでスタイルは多様です。シャンパンなどのスパークリングワインを造る場合、白ワインと赤ワインをブレンドしてロゼにすることがありますが、非発泡性のロゼワインでは、赤ワイン用のブドウを、白ワインを造るように醸造します。

今、世界的に人気なのは、とても淡い色調の辛口タイプ。個人的には、もう少し複雑な味わいを持つロゼもおすすめで、南フランスのワイナリー「シャトーシモーヌ」が造るロゼを飲んだ時には衝撃を受けました。学生時代、ブルゴーニュの赤はなかなか手の届かないものでしたが、銘酒「ドメーヌ・デ・ランブレイ」の畑から生まれるロゼは、いつだって笑顔にしてくれました。

グラスに注がれたピンク色に元気をもらう

南フランスのバンドールというワイン産地を旅したとき、気に入ったロゼを買って帰り、ボルドーの自宅でお蕎麦を作って、ロゼに合わせたらとても美味しかったことも楽しい思い出です。

ロゼワインと「夏野菜の素麺」。中央が三澤さんのつくった「グレイスロゼ」

ロゼワインは「どうしてもロゼじゃなきゃ!」という絶対的に合う一皿を挙げるのが難しいと言われる一方で、和食、洋食を問わず広く合わせやすいワインでもあります。ワイン造りという体力仕事を生業にする私ですが、実は食が細く、夏の農繁期は特に食欲が落ちてしまいます。

そんなとき決まって食卓に登場するのが、ロゼと夏野菜の素麺です。ロゼと相性の良いナスやトマトといった夏野菜に、茗荷をたっぷりと。リコッタチーズを入れるのもおすすめです。グラスに注がれたピンク色を見ると、元気になれる気がします。

ロゼワインとともに蘇るのは、友人たちと家で食卓を囲む歓びです。勉強に追われる学生だったからか、フランスで過ごした3年間の良き思い出は、何気ない日常の中に存在しました。私にとってロゼとは、美味しいワインと仲間がいれば、何か特別なことはなくても幸せじゃないかと教えてくれるワインでもあるのです。

Profile

中央葡萄酒株式会社 栽培醸造責任者 三澤彩奈


1923年から続くワイナリー「中央葡萄酒」(山梨県甲州市)の4代目オーナーの長女として生まれる。フランス・ボルドー大学でワイン醸造を学び、2007年にフランス栽培醸造上級技術者の資格を取得。2008年から現職。2014年に世界最大のワインコンクール「Decanter World Wine Awards」で日本ワインとして初の金賞を受賞。甲州ワインの名を世界に轟かせる。著書に『日本のワインで奇跡を起こす』(共著)


 

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