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Culture

2022年10月 平成中村座『唐茄子屋』(左から)傾城桜坂=中村七之助、若旦那徳三郎=中村勘九郎

平成中村座×宮藤官九郎新作歌舞伎で、勘九郎・七之助が父・勘三郎の夢を引き継ぐ

東京最古の寺院であり観光名所でもある浅草寺。この境内に今、“江戸の芝居小屋”が立っているのをご存じだろうか。ここで10月、11月と2ヵ月にわたって上演しているのが「平成中村座」である。

浅草に4年ぶりに帰ってきた

2000年、五代目中村勘九郎(後の十八世中村勘三郎)が浅草・隅田公園で誕生させた平成中村座は、江戸時代の芝居小屋を彷彿とさせる劇場を建ててほぼ毎年公演を打ち、国内各地はもとよりニューヨークやヨーロッパにも進出し大好評を博してきた。コロナ禍の影響で、19年の福岡・小倉公演以降やむなく休んでいたが、実に3年ぶり、浅草では4年ぶりに公演を行っている。

平成中村座が目指すのは、江戸時代にタイムスリップしたような劇場で観客に歌舞伎を楽しんでいただく、ということだけではない。勘三郎が思い描く“理想”の実現だった。きっかけは1970年代後半に遭遇したある体験である。

アングラ演劇の寵児とうたわれた唐十郎率いる劇団「状況劇場」が、新宿・花園神社境内に “紅テント”を建てて公演を行った。演劇の枠を超えた社会的“事件”と評され、演者と観客の熱気が渦巻く芝居を観た勘三郎(当時は勘九郎)は強烈な衝撃を受け、自分が実現させたいのはこれだと確信したという。

この熱狂を歌舞伎で起こしたい、起こせないはずはない——そんな勘三郎の信念が平成中村座には込められていた。

初の新作歌舞伎は宮藤官九郎の作・演出

勘三郎が亡くなって10年となる今年、浅草に帰ってきた平成中村座。昼・夜公演のどちらも連日盛況だが、その中で、勘三郎の息子たちである中村勘九郎と中村七之助、そして孫の中村勘太郎と中村長三郎が八面六臂の大活躍を見せているのが、第二部の演目『唐茄子屋~不思議国之若旦那』である。

『唐茄子屋』の作・演出は宮藤官九郎。中村屋(中村勘三郎一家の屋号)とタッグを組むのは歌舞伎座公演『大江戸りびんぐでっど』(2009年)、コクーン歌舞伎『天日坊』(2012年初演、2022年再演)に続く3作目だ。

シネマ歌舞伎『大江戸りびんぐでっど』は10月31日まで、歌舞伎オンデマンドにて配信中。2009年12月、歌舞伎座さよなら公演として上演された本作には、松本幸四郎、中村七之助に、十八世中村勘三郎、十世坂東三津五郎らが出演。作・演出の宮藤官九郎はじめ、音楽・向井秀徳、衣裳・伊賀大介、道具幕デザイン・しりあがり寿などのクリエイターの参加も話題となった

これまで専ら古典歌舞伎を上演してきた平成中村座が、初めて臨む新作歌舞伎となる本作は、古典落語の演目「唐茄子屋政談」に「不思議の国のアリス」の世界観が織り交ぜられた物語である。

幕開けは浅草・吾妻橋。花道から登場した八百八(荒川良々)が歩む先に、祭りでにぎわう華やかな舞台が現れて、観客は一瞬のうちに江戸の街に誘われる。ここで八百八は吾妻橋から身投げしようとする男を助けるが、それは甥である山崎屋の若旦那・徳三郎(勘九郎)だった。

発端の吾妻橋の場。祭り囃子が鳴り響き、行き交う人々でにぎわう吾妻橋を通りがかった八百八(荒川良々・写真右)は、大川に身投げしようとする男を助けるが、それは甥の徳三郎(中村勘九郎・写真左)だった

徳三郎はかなりのクズ息子で、吉原に入り浸って店の金にも手をつけてしまい、進退極まって命を絶とうとしていた。面倒見のいい八百八は、親に許しを請うよう説得するが、山崎屋に帰ってみると親たちは既に徳三郎を勘当すると決めた後。

さらに、徳三郎が羽振りのいい時には「何かあったら私が養ってあげる」と言ってくれたなじみの傾城(けいせい)・桜坂(七之助)にも、無一文の徳三郎に用はないとあっさり捨てられ、行き場を失ってしまう。

やむなく八百八の家に身を寄せた徳三郎は、八百八に命じられてしぶしぶ唐茄子(かぼちゃ)を載せた天秤棒を担いで売りに出るが、当然、まともに商売などできるわけがない。しかし、たまたま通りがかった大工の熊(中村獅童)が見かねて売り捌いてくれた。

2210平成中村座『唐茄子屋』大工の熊=中村獅童、若旦那徳三郎=中村勘九郎
八百八に命じられ、しぶしぶ唐茄子売りに出かけたものの、ひ弱過ぎて天秤棒に載せた唐茄子をひっくり返してしまい途方に暮れる徳三郎(写真右)。しかし、そこへ通りがかった大工の熊(中村獅童・写真左)に窮地を救われる

ずっしりと重い売上金を懐にしまい安心した徳三郎は、せめて残った唐茄子ふたつぐらいは自分で売ろうと歩きだすが、イチ(中村長三郎)という少年に案内されて行った貧乏長屋で、イチの母・お仲(七之助・二役)と出会う。

平成中村座2022 唐茄子屋 若旦那徳三郎=中村勘九郎、お仲=中村七之助、お仲伜イチ=中村長三郎
唐茄子を売った徳三郎は、少年イチ(中村長三郎・写真右)と出会い、その母お仲(中村七之助・写真中央)と暮らす貧乏長屋を訪れる。ひもじい暮らしにあえぐ母子を、徳三郎はそのまま見過ごすことはできなかった

父親は行方知れずで、食うものにも困る母子に同情した徳三郎は、唐茄子の売上金を全て与えてしまった。しかしその金は、家賃の催促に来た強欲な大家(坂東彌十郎)にすべて巻き上げられてしまう——。

この後、下敷きである落語ならば、いろいろ悶着はあれどもすべて丸く収まる、という結末にまっしぐら進むのだが、クドカン版『唐茄子屋』では、ここから異次元の世界が展開する。

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