×

川上未映子の「美の概念変えた」。マレーシア気鋭女性監督が描く、MIU MIUの「女性たちの物語」の中身とは?

「ミュウミュウ」が国際的に活躍する女性映画監督を迎え、ショートフィルムを発表するプロジェクト「MIU MIU WOMEN’S TALES (女性たちの物語)」。タン・チュイムイ監督による最新作『I AM THE BEAUTY OF YOUR BEAUTY, I AM THE FEAR OF YOUR FEAR』の封切りを記念して、東京・銀座の「シネスイッチ銀座」で上映会が行われた。

「MIU MIU WOMEN’S TALES(女性たちの物語)」とは?

「MIU MIU WOMEN’S TALES」は、女性監督たちに21世紀の女性らしさを鋭い視点で称える作品を制作してほしいという依頼からスタートしたプロジェクト。2011年からスタートし、これまでに延べ26作品を制作。第一弾を手がけた米国人映画監督ゾエ・カサヴェテスをはじめ、ジャーダ・コラグランデやアニエス・ヴァルダ、イザベル・サンドバルといった国籍や年齢を問わない人選で、日本からは河瀨直美が参加。

河瀨直美監督の作品は安藤さくらが主演し、音楽はサカナクションが担当した。

クロエ・セヴィニーやダコタ・ファニングといった女優を監督に起用し、作品を発表したことも。共通するのは、女性にまつわる時代を超えた普遍的なテーマに対する問いかけ。そして、着用されているのが「ミュウミュウ」の服であること。ときにはストーリーを強調し、ときには対立性を示すことにより、ストーリーをけんいんする役割をコレクションがになっているのもユニークなポイントだ。

マレーシアの気鋭女性監督が描く物語

第27作を手がけたタン・チュイムイ監督はマレーシアで活躍する映画監督兼映画プロデューサー。マレーシア・クアンタンの小さな漁村スンガイ・ウラで生まれ、2006年にデビュー作品『愛は一切に勝つ』で映画祭で数々の賞を獲得。以降も、第24回上海国際映画祭金爵賞で最優秀作品賞にノミネートされた長編作品『野蛮人入侵』(2021)やJIMEI x ARLES Discovery Award を受賞した「Just Because You Pressed the Shutter?」プロジェクト(2022)など、注目を集めている。

『I AM THE BEAUTY OF YOUR BEAUTY, I AM THE FEAR OF YOUR FEAR』は、主人公ギタが護身トレーニングを行うシーンから始まる。戦い方を教えてくれる姉妹のような女性たちに囲まれて暮らすなかで、身体的にも精神的にも自分自身と向き合うことで、過去の悲劇と向き合い、自分の中にある答えを見つけていくというストーリー。終わりのない苦闘を強いられる現代の女性における「自衛」の様々な意味を模索した本作について、監督は「自分の最大の恐怖と戦うことで、私たちは内なる強さと、自分自身の美しさを手に入れるのです」と寄せている。

「美しさの概念変えた」川上未映子が語る

3月に上海で行われたプレミアに続き、東京・銀座のシネスイッチ銀座で開催された上映会。上映会の後に、小説家で詩人の川上未映子を迎えたトークセッションが開催された。

恐れを克服する過程が象徴的に描かれた同作について、「私たちは美しいものに対して、無条件にいくらでも享受していいもの、与えてもいいものだと認識していますよね。でもこの作品の中では、激しく体がぶつかりあい、怒りや不安といったポジティブではない感情が映し出されています。優れた作品というものは、“こうだ”と思っている概念をわずかな瞬間で変えることができるんですよね。今回の短編にはそういったものを感じました。美というものの質、定義が変わる印象がありましたね」と自身の美の概念が揺さぶられたことについて触れ、「女性同士で自分たちの身を守るために、何かを練習して、獲得していくというストーリーも素敵でした。新鮮だったのは、私たちが普段欲しい、美しいと思うミュウミュウの服の表情です。ぶつかったり揺れ動いたり、きゅっと袖が絞られていたり。普段見ることのない服の表情に、服が感情を表すことができるんだと感激しました」とコメント。主人公を含め体を動かすシーンの多い同作では、2024年のコレクションの中でもポロシャツやボーダーのTシャツが印象的に描かれている。

トークセッションでは新作だけではなく、女性ならではの視点で、一般的には醜いとされる嫉妬や虚栄心を描いた作品も、過去には発表されてきた同プロジェクトについて話が及び、「やはり、そういった感情を描くことこそが芸術ですから、避けては通れないものです。大事なのは描き方。嫉妬を嫉妬のまま、虚栄心をみじめなものとして描くのではなく、その概念を覆すような瞬間を提供できる作品に達すると芸術として手渡せるのだと思います」と作家としての顔をのぞかせた。

10年以上にもおよぶ同プロジェクトだが、時代に沿って大きく変化する女性への価値観について、「今は女性らしさという言葉が私自身も辛いなと感じますし、それ自体が人から強要される抑圧の範囲の中で語られる価値観であることに気がついた10年だったと思います。一方で自分らしさという言葉には肯定的ですよね。自分が自主性を持って選んでいくこと。“らしさ”は自分自身が感じたり、いいなと思えるものであってほしいですね」と語った。

新作『I AM THE BEAUTY OF YOUR BEAUTY, I AM THE FEAR OF YOUR FEAR』は公式HPとYOUTUBEで公開中。YOUTUBEでは過去の作品も閲覧可能なので、さまざまな女性の物語に触れてみてほしい。

text: Mio Koumura

のんが着るこの春の新感覚ラグジュアリー
語らずにはいられない⁉️ 各界から絶賛されるアカデミー賞受賞作「落下の解剖学」

リンクを
コピーしました