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現代美術家、蔡國強の大規模な個展「蔡國強 宇宙遊―〈原初火球〉から始まる」

〈原初火球〉より「cAI™の受胎告知」

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。6月29日から、国立新美術館とパリのファッションメゾン「サンローラン」の共催で、現代美術界の巨匠、蔡國強の個展が始まった。個展の数日前にはいわき市四倉海岸で昼花火も。

時系列での作品展示は、本人のコメントも作品横に展示され、日本との関係も理解でき、とても見やすい

中国出身で日本にも縁の深い蔡國強の個展が6月29日から国立新美術館で開催されています。共催としてサポートしているのはパリのファッション・メゾン「サンローラン」。個展のタイトルは「蔡國強 宇宙遊─〈原初火球〉から始まる」。

中国福建省で生まれた蔡國強は1986年に来日し、1995年に渡米するまでの約9年の間に、火薬を用いた独自のスタイルを生み出しました。またしばらくの間住まいとした福島県いわき市の人々との交流と協働は強い絆を生み、今もなお続くその絆は、彼の創作活動の様々な面に深みや温かみを与えています。いわき市の人たちとの交流は、開高健ノンフィクション賞を受賞した川内有緒著「空をゆく巨人」(集英社)に詳細に書かれていますが、今や現代美術で世界的なスターとなった蔡國強の人となりを知る上で貴重な資料といえるでしょう。

国立新美術館個展での蔡國強氏
国立新美術館個展での蔡國強氏
©Saint Laurent

さて国立新美術館で展示されている作品は、国内の美術館の所蔵作品や蔡自身が所有している作品など50点余り。作品には蔡自身のコメントが貴重な資料や映像とともに展示されています。

時系列的に4部で構成された展覧会の内容は、第1部はアーティストとしての活動を始めた中国時代。日本で自身の作品テーマを確立し、より大掛かりな火薬絵画を制作するようになった第2部、アメリカを拠点に世界で活躍するようになった第3部と第4部といった具合に分かれていて、初めて作品を見る人にも彼の活動の流れがわかる仕組みになっています。

作品作りの根底にあるのは宇宙に対する関心

国立新美術館の2000㎡の空間は、部屋を区切る壁やパーテーションも何もなく、ふたつの大規模なインスタレーション「原初火球」や「未知との遭遇」を展示。それを取り囲むように初期の作品群や、その迫力で見るものを圧倒する「銀河で氷戯」、幅33メートルもの火薬ドローイング「歴史の足跡」などが展示されていて、見るものに彼の世界観を再認識させます。また最先端の技術(AIやAR)を駆使した作品も展示されています。

国立新美術館個展での蔡國強氏 後方の壁面は作品「歴史の足跡」
後方の壁面は作品「歴史の足跡」のためのドローイング
©Saint Laurent

作品のかかった壁面に囲まれたスペースでは、火薬で描いたドローイングが屛風画の形で、いかにも爆発を象徴するかのように放射線状に広がるように配置され、有名なインスタレーション「原初火球」を再現しています。

私が最も注目したのはLEDを使った大掛かりなキネティック・ライト・インスタレーション「未知との遭遇」でした。作品はゆっくりと回転し、時々花火のようにレッドやブルーの閃光を放つのです。まるでそこここで爆発が起こっているかのように。

国立新美術館個展での蔡國強氏 キネティック・ライト・インスタレーション「未知との遭遇」
キネティック・ライト・インスタレーション「未知との遭遇」

個展のタイトル「宇宙遊」にあるように、蔡の作品づくりの根底にあるのは宇宙に対する関心なのです。個展開幕の数日前にいわき市の四倉海岸で開催された昼花火「満天の桜が咲く日」イベントにおける挨拶で、蔡自身も語っています。

「今の世界はとても複雑で困難な状況にある。コロナ禍が収束していても人間社会では大きな変化が起こっている。経済の悪化や戦争など。AIの技術の発展もこれまでにないスピードで人間の生活に衝撃を与えている。宇宙のスケールで議論することは、目に見えない世界と話すことができ、今の社会に特別な意味を与えられるだろう」と。

前述しましたが、今回の個展をサポートしているのはパリのファッション・メゾン「サンローラン」。今や伝説となった創業者イヴ・サンローランは作品の中にアートを取り込むことをいち早く手掛け、ファッションとアート、そして社会の関係において革命を起こしたとも言えるファッション・デザイナーです。この伝統が現在のクリエイティブ・ディレクターであるアンソニー・ヴァカレロにも受け継がれ、今回の蔡國強の個展にもつながったのだと思います。

会期:8月21日まで 
会場:国立新美術館 企画展示室1E 
主催:国立新美術館、SAINT LAURENT


サン・ローラン・パリ
©Saint Laurent

*国立新美術館で個展の始まる3日前、いわき市の四倉海岸で、「サンローラン」サポートで火薬を爆発させるプロジェクト「満天の桜が咲く日」が400メートルの海岸を使い開催されました。これは2011年に起きた津波と原発事故に対しての犠牲者への鎮魂と世界平和の願いを込めた昼花火のプロジェクトです。
正午過ぎから始まった花火は1部「地平線-白い菊」、2部「白い波」、3部「黒い波」、4部「紀念碑」、5部「満天の桜」、6部「桜の絵巻」という風に分かれていましたが、残念ながらドローンからの信号の不具合で4部の「紀念碑」は実現しませんでした。5回の爆発プロジェクトは、まさに天空に壮大な絵を描くアートプロジェクトとして記念すべきイベントとなりました。

2023年7月27日

サンローランと国立新美術館が共催 蔡國強の大規模個展「宇宙遊 ─〈原初火球〉から始まる」

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