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【鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」】砂糖だけはケチらない倹約家の国の不思議

フランス文学者の鹿島茂さんが愛猫のグリ(シャルトリュー 10歳・♀)とともにお届けするこの連載。3月10日の「砂糖の日」も近い今回は、砂糖にちなんだエッセイを。万事倹約に努めるフランス人がなぜか砂糖だけはふんだんに使う、その理由とは?(本記事は鹿島茂:著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(中公文庫)から抜粋し作成しています)

なぜこんなに甘いのか

あるとき、19世紀フランスの風俗観察を読んでいたら、食料品屋の店員が年賀のお届けものとして「パン・ド・シュクル (pain de sucre)」をかついでいくという文に出会った。

パン・ド・シュクルをそのまま訳すと「砂糖のパン」だが、文脈から判断して「パン」をかつぐというのはいかにも不自然である。おかしいと思って辞書を引いてみると、「円錐のかたちをした砂糖の塊を紙で包んだもの」と出ていた。パンというのはパン状の形をしたものという意味らしい。

その後、フランスに行ってスーパーに入ったら、この円錐のパン・ド・シュクルがちゃんと置いてあった。高さは30㎝以上あるから、かなりのヴォリュームである。

イラスト◎岸リューリ

万事に倹約精神を発揮するフランス人がこと砂糖に関してはいたって鷹揚なのがおもしろい。カフェでエスプレッソを注文すると角砂糖が3つもついてくるし、ケーキなども口が曲がるほどに「甘い」。なぜ、こんなに砂糖を浪費するのか?

Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰

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