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【鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」】砂糖だけはケチらない倹約家の国の不思議

テンサイ VS. サトウキビ

この疑問を解くには、ナポレオン戦争にまでさかのぼる必要がある。それまで西インド諸島の植民地から豊富に砂糖を輸入していたフランスは、イギリスの大陸逆封鎖で砂糖の供給源が断ち切られたのに対処するため、テンサイ(サトウ大根)から砂糖を精製する研究を始め、工場を作った。これがヨーロッパにおけるテンサイ糖生産の始まりである。

テンサイ糖業者はその後、苦労の末に量産体制を築きあげ、代々の政府からも手厚い保護を与えられて順調に生産を伸ばしたが、やがて、世紀末から世紀初頭にかけて保護貿易に対する批判が高まると、政府も割高な国内糖を黙認しているわけにはいかなくなった。

テンサイ糖の効率的な精製技術を取りいれて大幅なコストダウンに成功した植民地のサトウキビ糖の業者たちが猛烈な輸出攻勢をかけてきたからである。

こうして、テンサイ糖業者とサトウキビ糖業者は過当競争から値下げ競争に走り、民衆は広くその恩恵に浴することができるようになった。政府もコスト的に不利なテンサイ糖業者を救済するために、砂糖消費の拡大を歓迎した。ここに、官民一体の砂糖デフレ体制が完成を見たのである。

「パン・ド・シュクル」が巨大なのも、デザートが甘すぎるのも、政府が砂糖に「甘かった」からにほかならない。
〔後記。最近ではダイエットの影響かフランスの角砂糖も2つになっている〕

【グリの追伸】カメラを向けられると、なんだか、急に、眠くなってしまうのが不思議です。

鹿島茂 猫 シャルトリュー グリ
撮られると思うとつい
鹿島茂 猫 シャルトリュー グリ
このようなありさまに

photo by Shigeru Kashima

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Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰

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