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お酒の世界の新たなトレンド

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。高まり行く健康志向、さらなる開発により、お酒の世界にも新しい傾向が生まれている

世界でも評価が高い日本産のウィスキー

ファッションの世界にトレンドがあるように、お酒の世界にもトレンドがあります。

先日、日本外国特派員協会でニッカウヰスキーの創業者である竹鶴政孝氏(連続テレビ小説「マッサン」の主人公のモデル)のお孫さんの竹鶴孝太郎氏による「ジャパニーズウイスキー、竹鶴政孝の100年」についてのお話を聞く機会がありました。

広島の造り酒屋の息子として生まれた竹鶴政孝氏は、日本におけるスコッチタイプのウイスキーの先駆者であり、スコットランドにわたりウイスキーの作り方を勉強して、世界で初めてスコットランド以外の国で、スコッチタイプの本格ウイスキーの製造に成功した人物です。スコットランド以外で本格的なスコッチウイスキーを製造できる国は日本以外にないといってもいいほどです。

日本のウイスキーの評価は非常に高く、サントリーも含め幾種類かの日本産ウイスキーはブランド化され海外でも高額で販売され、手に入れるのも難しいほどです。しかし国内でのウイスキーの消費量は、若い世代の多くがお酒を飲まなかったり、ハードリカーを好まなかったりするため、減少傾向にあるそうです。

以前は日本社会の“潤滑油”と呼ばれたお酒を飲む習慣は、徐々に薄まっているようです。またこの傾向は世界的なもので、ヨーロッパでも強いお酒を飲む人たちは減少しています。 

ミラノでは「アペロールスプリッツ」が大人気

先日ファッションウィークで訪れたイタリア・ミラノで、ファッション関係者や若い人たちに人気があるのは「アペロール・スプリッツ」というカクテルだと聞きました。これはイタリア生まれのリキュール「アペロール」をベースにドライな白ワインと炭酸水、あるいはスパークリング・ワインを注いだもの。軽くステアした後、オレンジのスライスを飾るというもので主に食前酒として飲まれています。おいしく飲むためにはグラスも材料もすべて冷やしておき、氷を加えて飲むとさらにさわやかでおいしいと、ミラノのホテルのバーテンダーから教えてもらいました。もちろんアルコール分はあるのですが、そんなに強くはありません。

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イタリアで人気の「アペロール・スプリッツ」

アルコールフリーのスパークリングワインの登場

パリ・ファッションウィーク期間中にパリ在住の知人から紹介したい人がいるので会ってほしいと言われ、ホテル・ジョルジュ・サンク・パリのバーで待ち合わせをしました。紹介されたのはスパークリングワイン・ブランド「FRENCH BLOOM」の創業者の一人、コンスタンス・ジャブロンスキーという女性でした。彼女はフランス版『marie claire』をはじめ有名ファッション誌にも登場するフランス人トップモデル。もちろんファッションウィークのキャットウォークにも登場しています。

彼女が友人マギー・フレールジャン・テタンジェ(元USミシュランのメンバー)と設立したのはアルコールフリーのスパークリングワイン・ブランド、「FRENCH BLOOM」。アルコール度数が0.00%で、オーガニックな原材料から造られています。

French Bloom
「FRENCH BLOOM」の創業者マギー・フレールジャン・テタンジェ()とコンスタンス・ジャブロンスキー

アルコールフリーのスパークリング・ワインを開発しようという動機は、マギーが妊娠中のことだったと言います。いくつかの祝祭の場で皆がスパークリン・ワインで乾杯するのに、自分が加われないという疎外感、また手にグラスをもって祝うことができないということから、アルコールフリーのスパークリング・ワインを造れないかと夫のロドルフに相談したのが始まりとか。

ロドルフはシャンパーニュで有名なテタンジェ家の縁戚。彼の指導の下、複雑なワインをアルコール分無しで提供しようという強い信念のもとにこのプロジェクトは始まったのです。 

フランスの有名なワイン生産地であるラングドック地方で生産されていて、アルコールを抜く作業は、醸造後のプロセスで、手作業で脱アルコール処理をした後オーガニックアロマで味を調整し、発酵の最後に上質な泡を加えているのです。

FRENCH BLOOM_BLANC_ROSE
「FRENCH BLOOM」のアルコール・フリー・スパークリング・ワインのロゼとブラン(白)

ロゼと白の2種類あり、試飲したのですが、まさに味は上質なスパ-クリング・ワインでミネラル感や深み、フレッシュさを感じ取ることができました。とてもバランスがいいスパークリング・ワインだと思います。

このプロジェクトチームには世界で最も多くミシュランの星を獲得したシェフと協力関係にあるエグゼクティブ・ソムリエも参加しています。

2022年、2023年にはWorld Sparkling Wine Awardsで「The World’s Best Alcohol-Free」にも選ばれ、また2023年のAmericas Wine Awardsでも金メダルを獲得しています。

これにより「FRENCH BLOOM」はスーパープレミアム・アルコールフリー・スパークリング・ワインでの地位を確固としたものにし、32カ国で展開することになったそうです。 

宗教的な理由や、その日の体調、健康上から、またプロスポーツ選手など、様々な理由でアルコールを飲むことができないため、その場の雰囲気を楽しめない人たちにとって、低カロリーでヘルシーなアルコールフリーのスパークリング・ワインはまさに打ってつけの飲み物となりうるのではないでしょうか。

前述の「アペロール・スプリッツ」は日本ではホテルのバーやイタリアン・レストランで飲むことができますし、「FRENCH BLOOM」も日本では限られたレストランやワインショップですが購入できます。また今春には、年間17,000本しか生産されない新作アルコールフリーの「フレンチ・ブルーム・ラ・キュヴェ・ヴィンテージ2022」が発売されるそうです。この分野での特定年醸造のものは世界で初だそうです。

アルコールが苦手、でも雰囲気を楽しみたい方や、華やかな泡で、盛り上がる空間を共有したい人たちにとって、とても魅力的な飲み物ではないでしょうか。

2024年3月28日

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