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強くしなやかに進化する杉咲花。俳優という垣根を超えて挑んだ話題作が公開

着実にキャリアを積み重ね、若手女優の筆頭として第一線を走る杉咲花。NHK連続テレビ小説『おちょやん』や映画『市子』など話題作への出演が続いているが、どの作品でも心に訴えかける圧倒的な演技力で観る者を魅了する。そんななか、新たな代表作となる『52ヘルツのクジラたち』が完成。2021年に本屋大賞を受賞した町田そのこによる同名小説を映画化した本作で、主演を務めた。作品にかける思いと俳優としての覚悟、そして素顔に迫る。

杉咲花
シャツ¥352,000  パンツ¥242,000(ともにヴァレンティノ/ヴァレンティノ インフォメーションデスク) ネクタイ¥60,500 イヤカフ¥53,900(ともにヴァレンティノ ガラヴァーニ/ヴァレンティノ インフォメーションデスク)
photo: Masami Naruo〈SEPT〉/ hair: ASASHI〈ota office〉/ make up: suzuki / styling: Saki Nakazawa

あどけなさとミステリアスな雰囲気を併せ持ち、唯一無二の輝きを放つ杉咲花。これまでも幅広い役どころに挑んできたが、最新作『52ヘルツのクジラたち』では、自身の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚に全身全霊を注ぐ。他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけの“52ヘルツのクジラ”と同じように、孤独を抱える主人公。深い悲しみから再生へと歩み始める姿には、誰もが心を揺さぶられる。杉咲は準備段階から参加し、制作陣と俳優という垣根を超えた作品づくりを経験。熱量の高かった現場について振り返る。

「軸にあったのは『観客が居場所を見つけられる作品にしたい』という気持ちでしたが、多くの痛みが描かれた本作に携わるうえで、演じるだけではない形で自分が責任を取ることの必要性を感じました。制作陣とは議論を積み重ねながら価値観をすり合わせていったので、映画人の大先輩である成島出監督とぶつかり合ったこともありました。しかしそれは『監督と俳優ではなく人間と人間として関わっていこう』という姿勢を監督が見せてくださっていたからこそできたことだと感じています。キャリアや年齢に関係なく、作品の質を上げるために皆が意見を持ち寄れる非常に健康的な現場でした」

杉咲花 52ヘルツのクジラたち

そして、本作を通して学んだことを観客にも伝えたいと訴える。

「貴瑚は痛みを抱えていながら、他者を傷つけてしまう側面もあり、善と悪の境界線は曖昧であることを考えさせられましたし、それは現実社会でも起こりうることだと思います。私たちが想像できないような経験をしている方はたくさんいると思うのですが、そのことを知ろうとしている人も、誰かを傷つけてしまった人もいるはずで。観る方にも自分の話として捉えてもらえたらと。気づきや希望を感じられる作品であってほしいという願いがあります」

杉咲は「一人でも人生観が変わるような映画になっていたらうれしい」とも話しているが、性的マイノリティなど社会的に弱い立場に置かれる人々を描いた作品に向き合ったことで自身の人生観にも影響があったと明かす。

「本作は、当事者や有識者の方々からの多種多様な視点が包摂的に反映されています。普段目の前に広がる光景だけでは気づけないことがこんなにもたくさんあることを知り、ものづくりに対する価値観が変わりました。私自身も“52ヘルツの声”に耳を澄ませることができなかった部分があったと思うのですが、本作に携わったことで聴こえる音域が少しだけ広がったのではないかなと。いまを生きる誰もがSOSを出していいし、きっと誰もがその声を拾い上げることができるはずという希望を感じられる社会であってほしい。だからこそ、わかったふりをせず、知識を深めながら対話を重ねていき、隣にいる人たちと共に生きていきたいです」

どんなテーマにも真摯に向き合う杉咲は、作品選びに対する意識も高い。

杉咲花
ジャケット¥426,800 ドレス¥400,400(ともにジル サンダーバイ ルーシー アンド ルーク・メイヤー/ジルサンダージャパン)
photo: Masami Naruo〈SEPT〉 / hair: ASASHI〈ota office〉/ make up: suzuki / styling: Saki Nakazawa

「仕事を始めた頃は物語を娯楽として捉えている感覚が強かったですが、成人して選挙に参加できるようになったり、社会の流れを自分なりに解釈し、さまざまな事象を描いた作品に携わったりしていくうちに、生活と地続きにある作品に関わりたいと考えるようになりました。この先も社会との接点を探して、自分の考えを表明する場としての意識を持つことも大切にしながら作品を選んでいきたいと思っています」

現在26歳の杉咲がこれからどんな風に歳を重ねていくのか楽しみなところだが、理想の女性像を目指すうえで心がけていることがあるという。

「SNSを見る時間は多いかもしれません。現代を生きる生活者たちのリアルな状況や悩み、疑問、流行といったものが共有されている場なので、世の中の動きを観察するという意味でも、さまざまな声に出会えるものには敏感でいたい気持ちがあります。自分の感覚や価値観を見つめて、気づきや反省をアップデートしていける人でありたいです」

一言一言を丁寧に話し、まっすぐな瞳の杉咲からは女優としての揺るぎない決意すら感じたが、その合間に自然体でチャーミングな素顔も覗かせる。

「私がこの仕事で一番大事にしていることは、他者を通して人を想像し続けることです。なので、いまは演じること以外に興味はありません。でも、プライベートでは一人旅を去年初めて経験してすごく楽しかったので、また行けたらいいなと。この前は、盛岡で一つでも多くの冷麺を食べるためだけに自分で運転して遠出したこともあったくらい(笑)。自分が生活している場所から飛び出し、見たこともない景色に触れるってこんなにも楽しくて豊かなことなんだと知りました。次は、伊勢神宮に行ってみたいです」

杉咲花 52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたち
公開: 3月1日(金)、TOHOシネマズ 日比谷他全国公開
出演: 杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李
監督: 成島出
主題歌:「この長い旅の中で」Saucy Dog(A-Sketch)
配給:ギャガ
公式サイト: https://gaga.ne.jp/52hz-movie/
©2024「52 ヘルツのクジラたち」製作委員会


原作:『52ヘルツのクジラたち』
町田そのこ 著(中公文庫)
2021年本屋大賞第1位。52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一匹だけのクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年の新たな魂の物語。

杉咲花 52ヘルツのクジラたち
文庫判320ページ 定価¥814

お問い合わせ先

ヴァレンティノ インフォメーションデスク tel: 03-6384-3512
ジルサンダージャパン tel: 0120-919-256

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