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「人を幸せにするジュエリーとは」。マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックは語る

photo: Tomoko Hagimoto

「色石の魔術師」。マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックさんをこう呼ぶ人は多い。自らの名を冠したブランドのジュエリーはカラフルで、時に身につける人を幸せにし、お守りともなる。こうしたジュエリーはどのように生まれるのか。デザイン哲学、自身のスタイルについて聞いた。

自分自身を豊かにするジュエリー

MHT ジュエリー
石の個性を生かしながら、職人の高度な技術で仕上げたジュエリーの数々
photo: Tomoko Hagimoto

「ステータスシンボルでもなく、男の人のために身につけるものでもない。自分が身につけて幸せになれるものをデザインする」。ブランドの哲学を尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

幼いころリビアやレバノンで育ち、ジュエリーと旅が大好きだった。ロンドンでファッションの仕事をしながら、旅先のインド・ジャイプールで見た色石の豊富さや金細工職人との出会いが、ジュエリーデザインの道へと導いた。ブランドをスタートさせたのは、1996年。トルマリンなどを使ったジュエリーを発表した。「祖母に似合うような保守的で伝統的なデザインばかり。服はファッショナブルなのに、自分が身につけたいようなジュエリーがアンティーク以外に見つからなかった。だから自分でデザインした」

1997年に発表したカボションリング。パリの装飾美術館に収蔵された

1997年に発表したカボションリングは、当時としては斬新なデザイン。のちにパリの装飾美術館にも収蔵された。色への情熱、大胆な石の組み合わせが、独特のスタイルを確立していった。

いち早く目に留め、買い付けてくれたのがニューヨークのバーニーズや、パリでオープンと同時に世界中から人が集まってきたセレクトショップのコレット。「新しいものを求めて世界中の人がやってくる店だったので、注目されるようになった」

色が人生

マルチカラーの石を、手編みした金のチェーンと組み合わせたネックレス (1997年)

マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックの特色のひとつがマルチカラー。今でこそ当たり前のように多くのジュエリーに取り入れられているが、例えば1997年に発表したレインボーカラーのネックレスは伝統的なデザインの常識を打ち破るものとして、大きな話題となった。「よく言われることだけれど、幼いころから私には色の見え方が違うのかもしれません。とても色に敏感で、ほかの人よりも色がたくさん見えるし、感じ取ることができるのです。Color is lifeです」

2024/1/24_マリーエレーヌドゥタイヤック指輪
22金の抑えた輝きが生きるブレスレット

また、軟らかすぎてあまり使われない22金をあえて使うのも「大地から来た、古代の金のようにどこか温かみがあるから」。軟らかいからこそ、いろいろなテクニックが使える。細い糸のようにして編んでいったジュエリーもその一つだ。18金ではできないことだという。

石と対話する

2024/1/24_マリーエレーヌドゥタイヤックジュエリー
モーガナイトの形から思いついたウサギのジュエリー

クリエーションは石と向き合うことから始まる。週末、だれもいない部屋でテーブルに石をたくさん並べる。石を眺め、触り、感じる。そうしていると、石が語りかけてくるという。「私にとって、とてもクリエイティブな時間なのです」。こうした石との対話の中から様々なジュエリーは誕生する。例えば、2024年春夏の新作、ウサギの形をしたジュエリーだ。きっかけは、長い間持っていた、ちょっと変わった形のモーガナイト。眺めているうちに、「あっ、ウサギになる」とインスピレーションがわいてきたそうだ。

ジュエリーが一点物なのは、そこにある石を生かすため。同じカボションリングでも全て違う。決して決まったサイズや同じ大きさにそろえることがないからだ。

ジュエリーは人生とともに

2024/1/24_MHTマルチカラーの指輪
色の組み合わせが絶妙なリング

ジュエリーを身につける意味は、「タリスマン(お守り)のようなもの」という。「例えば最初の給料で自分のために買ったり、子供が生まれた時に買ったりと、ジュエリーは幸せな時に買うことも多い。買った人それぞれのストーリーがある、とてもセンチメンタルで、人生そのもの」

自身にとっての思い出深いジュエリーといえば、金貨のチャームがついた祖母のブレスレットだそう。祖母には5人の子供がいたので、それぞれの誕生日が刻まれた五つの大きな金貨に、孫の誕生日が刻まれた小さなコイン付き。「祖母が歩いてくると、遠くから聞こえてくる金貨の鳴る音がきこえる。それで祖母だとわかりました。ジュエリーの音って大事なんです」。ジュエリーには誰でもストーリーがある。

クローゼットの中もレインボーカラー

カラフルなのはジュエリーだけでなく、服もそう。会うたびに意外な色の組み合わせに驚かされる。服選びはその日の気分。その日の空の色がグレーだったら、黄色などを選ぶ。「グレーと黄色のコンビネーションでハッピーになりたいから」。ピンクと赤、グリーンとブルー、特にティファニーブルーが大好き。「クローゼットの中もレインボーカラーのように色別に服を並べてある」のだそうだ。

MHT マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤック
photo: Tomoko Hagimoto

好きな言葉は「セレンディピティ」。「偶然にすばらしい幸運に巡り合うこと」という意味だが、石との出会い、つける人とマリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックのジュエリーとの出会いも、すべてセレンディピティなのかもしれない。

聞き手:宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)

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