久しぶりにパリ・コレクションを見る
2023.11.30
マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。コロナ禍のため、ひかえていたパリ・コレクション取材。 3年ぶりの出席は、パリの実力を再確認することになった。
2023.11.30
マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。コロナ禍のため、ひかえていたパリ・コレクション取材。 3年ぶりの出席は、パリの実力を再確認することになった。
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3年ぶりにパリに行ってきました。2024年春夏パリ・コレクションを見るために、またフランスマリ・クレールとの打ち合わせのためです。
9月26日の夕刻、シャルル・ド・ゴール空港に到着。初秋のパリということでかなり寒いのではとの予想は外れ、真夏のような暑さに、まず驚かされました。この好天と暑さは期間中ずっと続き、ファッション・ウィークをさらに盛り上げるのに一役買っているようでした。
パリ市内は来年のパリ・オリンピック、パラリンピックを控え、またラグビー・ワールドカップが開催中とあり、海外からの観光客も多く、騒然とした雰囲気が随所で感じられました。
ショーは、好天を利用して、セーヌ川のほとりや古城を舞台にしたり、大きなテントを使ったり、歴史的な建造物を使用したりと多様な舞台をバックに開催されました。
コレクション前に既に発表されたデザイナーの交代や辞任、インフルエンサーの台頭など、コロナ後のファッション界の行方に否が応でも関心が高まったこのファッション・ウィーク。各ブランドのコレクションから感じたのは非常に楽観的な、自由にファッションを楽しもうという姿勢でした(コレクションレポート参照)
「ルイ・ヴィトン」はシャンゼリゼ通りの隣の、将来はホテルにする予定のビルを使いショーを開催。ビルの内部の床、壁、天井をオレンジのシートで覆い、鮮やかな色使いと軽快なシルエットで旅の高揚感を演出。また「エルメス」では野草や花を使い会場の内部を演出、モデルたちは、ボルドー、グレージュ、ホワイト、ブルーなど色の順に、上質なレザーを使ったタンクトップやブラトップにレザーやシルクのしなやかなテーラードをあわせるスタイルを展開。「シャネル」はキュビスムの影響を受けた南フランスにあるヴィラ・ノアイユ庭園をインスピレーション源に、鮮やかな色使いでチェックやパッチワーク、ストライプのスーツやワンピースをサンダルやフラットシューズとともに見せ、とても明るく楽しいコレクションを発表しました。
〈左から〉Louis Vuitton, Hermès, Chanel
“クワイエット・ラグジュアリー”という言葉が、昨今いろいろな場面で使われています。これ見よがしではなく、上品で控えめなコレクションのことですが、その流れのコレクションが多く見られました。しかし、ファーストルックで鳥肌が立つようなチャレンジングで実験的なコレクションもあるのがさすがパリです。
特にその興奮を感じさせてくれたのは「ドリス ヴァン ノッテン」。「見慣れたものを、見たことのないありふれたものに」というテーマで、ストライプのシャツやタキシードなどメンズの昔からあるアイテムの素材や柄を、全く別のものに、自由に作り替えて発表していました。またヴァンセンヌの古城をバックにフェミニズム・アートのリンダ・ベングリスの作品を随所に配した会場でショーを見せた「ロエベ」は、シルエットにフォーカスするという狙いで、余分なものをそぎ落とし、新しいプロポーションを提案していました。アートとの境界線を取り払うような試みです。
〈左〉Dries Van Noten、〈右〉Loewe
今回のパリ・コレクションで特に印象的だったのは日本のクリエイターたちへの大きな拍手でした。「アンダーカバー」「イッセイミヤケ」「ヨウジヤマモト」「コムデギャルソン」などパリ・コレクションに参加している日本ブランドは10以上、全体の10%に当たります。どのブランドも独自の考えで、トレンドにも影響されず、我が道を行くといったスタイルを表現し、パリで常に高評価を得ていますが、今回のコレクションでもそれは変わりませんでした。
特に印象に残ったのは「アンダーカバー」。テーマは「ディープ・ミスト」。スモークがたかれたおぼろげな空間の中で闇の中にうっすらと見えるシルエット。コラボしたドイツ人画家ネオ・ラオホのシュールな作品やデザイナー自身が描いた目のない肖像画をプリントしたスカートなど、幻想的な雰囲気の中で、まるでアート作品のようなコレクションを発表し喝采を浴びました。
日本デザイナーの底力を改めて感じることができたのが、一番の収穫だったのかもしれません。
2023年11月30日
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©︎marie claire
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