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時計界のアカデミー賞、「ジュネーブ時計グランプリ」開催

スイス・ジュネーブの「テアトル・デュ・レマン」で開かれた授賞式

2023年度ジュネーブ時計グランプリ(Grand Prix d‘Horlogerie de Genève/GPHG)が11月9日、スイス・ジュネーブで開催された。ジュネーブ時計グランプリはジャーナリスト、時計師、コレクターなどで構成される審査員がその1年の新作ウォッチを対象に、ジャンルごとの部門賞と最高賞「金の針賞」を表彰する催しで、時計界のアカデミー賞とも称される。時計業界の1年を締めくくる祭典とあり、授賞式会場の「テアトル・デュ・レマン」には各時計ブランドのトップやセレブリティなどが集まり、豪華な顔ぶれとなった。

800名以上の会員による一次審査を経て、2023年度は84の時計作品がノミネートされた。各賞の受賞作品は30名の審査員により、授賞式の数日前に決定される。授賞式の司会はフランスの俳優エドゥアール・ベール氏が務め、審査員がプレゼンターとなって順に部門賞を発表する。受賞作品が発表されると、歓喜の声と拍手に包まれ、ブランドの代表者がスピーチを行う。発表の瞬間こそ緊張感もあるが、お互いをたたえ、喜びを分かち合う、楽しげな雰囲気である。ジュネーブ時計グランプリは、小規模の独立系ブランドも多く参加する開かれた賞だ。また、部門賞とは別に、業界の傑出した人物には審査員特別賞が贈られる。時計業界の発展に大きな役割を果たしているイベントだといえる。

授賞式の最後に発表される「金の針賞」には、オーデマ・ピゲの「Code 11.59 by Audemars Piguet Ultra-Complication Universelle RD#4」が輝いた。2013年からオーデマ・ピゲを率い、名門ブランドの近年の飛躍の立役者となってきたフランソワ-アンリ・ベナミアスCEOは、今年いっぱいでの退任を表明している。時折、感極まりながらスピーチを行い、最後は「みんな、おめでとう」とチームに敬意を表した。

受賞のスピーチを行うオーデマ・ピゲのフランソワ-アンリ・ベナミアスCEO

日本ブランドの受賞はならなかったが、セイコーウオッチから「グランドセイコー エボリューション9 コレクション テンタグラフ」と「セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン GMT」の2作品が、それぞれクロノグラフ部門とチャレンジ部門にノミネートされていた。特にグランドセイコーは、壮麗な白樺林を表現した文字板が美しい「ヘリテージコレクション」のメンズウォッチ部門賞受賞(2021年)、グランドセイコー初の複雑時計「Kodo(鼓動)コンスタントフォース・トゥールビヨン」のクロノメトリー賞受賞(2022年)が記憶に新しい。今年ノミネートされた「テンタグラフ」は、グランドセイコー初の機械式クロノグラフとして3月の「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ・ジュネーブ」(ジュネーブで行われる国際時計見本市)での発表時に大きな話題を呼んでいた。3年連続の受賞はならなかったものの、会場を訪れたセイコーウオッチの関係者は晴れやかな表情で、「審査員の価値観は多様で、時代に合わせて変化もする。だからこそ、このグランプリの受賞には大きな価値がある。日本のものづくりや美意識を世界に評価してもらえるように取り組んでいきたい」と、次なるチャレンジへの意欲を見せた。

「グランドセイコー エボリューション9 コレクション テンタグラフ」。高精度とロングパワーリザーブを両立したスポーツウォッチ。
「セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン GMT」。1968年にセイコーが発売したクラシックなダイバーズウォッチをモダンなデザインで再解釈した。

最終選考に残った84点のノミネート作品は、ジュネーブ市内のラート美術館に期間限定で展示され、審査員がガイドを務める鑑賞ツアーには一般市民も多く参加し、解説に耳を傾けていた。

授賞式の翌日、ラート美術館にて、ガイドツアーに参加する市民ら。

text: Shunya Namba
@Paris Office

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