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メレリオのジュエリーアンバサダーに就任。パリ・オペラ座のエトワール、ユーゴ・マルシャンが広げるバレエの未来

2017年に東京でパリ・オペラ座のエトワールに任命された、初の「日本生まれのエトワール」、ユーゴ・マルシャン。この夏、「ル・グラン・ガラ2023」の公演のために来日した。今年1月からアンバサダーに就任したメレリオのジュエリーについて、そして彼が今、熱心に取り組んでいる活動について語ってもらった。

自分の感性と合うジュエリー

暑い夏の日、ユーゴ・マルシャンはシンプルな白のタンクトップに、メレリオのジュエリーをいくつも重ねづけして現れた。

「元々、ジュエリーが好きで、バレエを練習する時もつけています。今はアンバサダーですから、イベントやディナーの時に大きなジュエリーを身につけることもあります。女性用にデザインされたものでも、違和感は全くないですね。考えてみれば、何百年もの間、国王たちは権威の象徴として宝石を身につけていたわけですから、男性がジュエリーをつけるのはごく当たり前といえるかもしれません」

メレリオは1613年、パリ・オペラ座にほど近い場所で創業した世界最古の宝石商だ。

「オペラ座の界隈(かいわい)にありますから、以前からよく知っています。ジェネラルディレクターのクリストフとは知り合いでしたし、彼の紹介で、メゾンの14代目でアーティスティックディレクターのロール=イザベル・メレリオと出会いました。彼女とバレエやアートについて意見を交わす中で、共通する価値観があり、アンバサダーを務めることになったのです。400年以上の伝統がありながら、今も現代的に存在し続けているメゾンであること、それからメレリオカットという独自のダイヤモンドカットを継承し、現在のデザインに展開していること。そうした点すべてに、自分の感性と共通するものがあります」

「メレリオ」ユーゴ・マルシャン

メレリオカットとは、57の面でカットされ、最大限の輝きと光の反射を提供できるように調整された優美な卵形のプロポーション。メレリオの職人たちの卓越した技術と専門知識によって生み出され、アイコンとして位置づけられている。ユーゴ・マルシャンは取材の日も、この卵形のフォルムをデザインに用いた新作のRivieraコレクションをまとっていた。

バレエを観たことがない人へ届けたい

パリ・オペラ座バレエは同じく17世紀に創設され、長い歴史を持つ。エトワールとして伝統を継承し、現代の観客を魅了するユーゴ・マルシャンは、バレエを未来につなぐ取り組みにも力を注いでいる。

2022年、「Hugo Marchand pour la danse(ユーゴ・マルシャン・プール・ラ・ダンス)」というアソシエーションを設立。「Les Etoiles Au Château(レゼトワール・オ・シャトー)」と題したバレエの公演を開催している。その名の通り、舞台は城だ。

「お城を背景に、野外に仮設の観客席を設置して、バレエを披露します。企画の発端はコロナ禍でした。イタリアでロックダウンの時に劇場が使えず、野外で公演をすることになり、郊外にある文化遺産のお城を舞台にしたのです。その時、地方では劇場でバレエを観たことがない人や、入場料が高額で観られない人がたくさんいるということを知りました。そこで、地方の人たちの生活圏内にある有名な遺跡をお借りして、13ユーロという破格の入場料で、パリ・オペラ座などのダンサーが集い、公演を行うことにしたのです」

今年6月には、フランス室内装飾の巨匠ジャック・ガルシアが所有する、ノルマンディー地方のシャン・ド・バタイユ城でも開催された。

「土曜日に1000人、日曜日に1000人。多くは地元の方々で、パリ・オペラ座のバレエを観るのは初めてという方がたくさんいました。そうした機会を作れることに大きな感動があります。9月にはブルゴーニュでも開催しますが、初めてバレエを観る方にぜひいらしていただきたいですね」

公演は自身でオーガナイズし、資金を集めるなどの活動も行っている。

「フランスの地方行政に協力を得るほか、活動に賛同してくださる企業や個人から資金をいただいて、ダンサーを手配し、契約を交わします。自分はあくまでもダンサーですので、アレクサンドラ・カルディナール(元ダンサーで、現在は公演プロデュースなどを手がける)に大変お世話になっています。演出を担うだけでなく、ダンサーたちの旅費なども手配してくれているのです。衣装はパリ・オペラ座の提供で、音楽や照明などのさまざまな機材は、スポンサーの方々の協力を得ています」

数年後にはフランス全土を回りたいという夢がある。

「フランスの地方には多くの遺跡や名勝がありながら、あまり知られていません。知る人ぞ知る文化遺産を発見する機会にしたいと思います。そしてその地に、パリ・オペラ座のバレエという文化をもたらしたい。ただ、パリ・オペラ座の契約ダンサーは拘束時間が長く、土日はいつも公演のために空けておかなければなりません。この取り組みに使える週末は年に2、3回しかないのが実情です。身体的負担が大きいと疲れて、けがにつながりますから、舞台には足に衝撃の少ない床材を設置しています。高価ですが、ダンサーの体を守らなくてはなりません」

エトワールとして多忙な日々を送るなか、5年前から両親が暮らす街ヴェルトゥでマスタークラスも開催している。

「市役所の協力を得て、バレエダンサー育成プログラムを行っています。フランス国内だけでなくベルギーやスペインからも生徒が集まり、引退したバレエダンサーなどの力も借りてレベルの高い指導をしています」

「レゼトワール・オ・シャトー」やマスタークラスを開催する背景には、バレエの未来に向けた思いがある。

「自分にできることは小さなことですが、多くの人にバレエという伝統を受け継いでほしいと思っています。フランスではバレエはエリート階級のもので、かつそこに男性はほとんどいないというイメージが定着してしまっている。習い事としての学校は全土にあるけれど、そこから先はエリートのものという認識なんです。現代の生活を見渡せば、人々はダンスが大好きですよね。ヒップホップが流行るように、バレエも楽しんでほしい。日本でも多くの人が習いには行くけれど、バレエ団に国からの予算はなかなかつかないと聞きました」

成熟したダンサーとして何ができるか

2017年3月、東京でパリ・オペラ座のエトワールに任命され、日本のバレエファンの注目を集めてきた。

「東京文化会館の公演でエトワールに選ばれたことにより、新しいファンの方も増えたと思います。毎年お目にかかるコアなファンの方々に、毎年新しい表現をお見せするように努力しています。この夏の公演では、4月に亡くなった振付家のピエール・ラコットにオマージュを捧(ささ)げて、『赤と黒』より寝室のパ・ド・ドゥなどを披露しました」

ユーゴ・マルシャン

エトワールに任命されてから6年、心身ともに大きな変化があったと語る。

「バレエダンサーとして何をするべきかについて、理解を深める時期でした。私生活でも出会いと別れがあり、愛情面でさまざまな感情が交錯した貴重な6年間でもありました。また、この2年間はけがの影響があり、体と相談しながら踊り方の工夫をしなければならなかった。自分は29歳で、バレエダンサーとしては決して若くはありません。しかし、リタイアが近いわけでもない。成熟期と呼ばれるところにいます。成熟したダンサーとして何ができるか、この6年間、考えを深めてきました。自分の体はアスリートのように筋肉質なので、その身体的パワーを生かして、いかに繊細な感性を表現するか、それが一つの個性ではないかと思います」

ダンサーとして、そしてバレエの伝統をつなぐ立場として、飛躍するユーゴ・マルシャンから目が離せない。

intervew & text: Saya Tsukahara

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