鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」【セーラー服は男の子のおしゃれ着だった】
2022.9.3
2022.9.3
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また、これは元海軍の人から教えられたことだが、襟を立てるとそれが反響板になって騒音の中でも命令などがよく聞こえるという。たしかにそうかもしれない。
もう一つの説は、イギリスやフランスが海軍を創った時代には、水兵や水夫のヘアー・スタイルが、長い髪を後ろで束ねるおさげ髪だったので、それによって服が汚れるのを防ぐために、襟をあのようなかたちにした、というものである。私はこれが正解だと思う。なぜかというと、昔の船乗りや鯨捕りを描いた絵を見ると、たしかに、おさげ髪にしているからだ。
しかし、それではどうして、おさげ髪なのかという疑問が起きる。
じつは、おさげ髪はヘルメットの代わりをしていたのである。つまり、髪を長く伸ばして肩の下あたりで結ぶようにしておくと、これが延髄に索具などが当るのを防ぐ働きをするばかりか、おさげ髪の上に大きな帽子をかぶると、束ねた髪止めのところで止まって下にずれず、一種の甲羅(こうら)のようになって、索具や袋などの重い荷物をかつぐことができる。つまり、おさげ髪は水夫、水兵の職業的な髪形であり、それに合わせてあの特殊な襟が考案されたというわけだ。
当時は、服は1年中着替えず、襟だけをはずして洗うようにしていたから、襟なら汚れてもかまわなかったのである。セーラー・カラーはもともとおさげ髪にピッタリくるようにできているのだ。
道理で、おさげ髪の女学生にセーラー服はよく似合うはずである。
【グリの追伸】この二枚の写真には、逆光のせいで、耳の中の毛がしっかり写っていますね。猫はこの耳毛のおかげで音に敏感なんです。
text & photo by Shigeru Kashima
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鹿島茂
かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰。
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