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映画デビュー作『貴公子』でえくぼの殺し屋を怪演。俳優キム・ソンホにインタビュー

© 2023 GOLDMOON PICTURES & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

「スタートアップ:夢の扉」「海街チャチャチャ」と大ヒットドラマが続き、たちまちアジアのスターとなった韓国の俳優キム・ソンホ。昨年、出演俳優をスターにすることでも知られる『新しき世界』『THE WITCH/魔女』のパク・フンジョン監督とタッグを組み『貴公子』で映画デビューを果たし、その怪演ぶりに誰もが舌を巻いた。

ヒットドラマではフンナム(心が温かくなる癒し系の男性)役が続いたが、巨額の遺産をめぐる追撃アクションノワール『貴公子』での、型破りでスタイリッシュな殺し屋役は衝撃的ですらある。エクボがチャーミングな謎の男“貴公子”を怪演、甘いマスクでささやきかける彼は、悪魔なのかダークヒーローなのか? 最後まで予測不能だ。

この作品で、昨年末大権威ある大鐘賞と釜日映画賞で新人賞も受賞したキム・ソンホが、4月12日(金)の日本公開に先駆け、インタビューに応じた。既存のアクションノワールとは異なる面白さに、すっかり心を奪われる傑作なので迷わず劇場に足を運んでほしい。

――『貴公子』の脚本に最も惹かれたところは?

まず、僕自身がパク・フンジョン監督のファンでしたし、貴公子という謎の男ベールに包まれた男の存在に惹かれました。チェイサーの映像を思い浮かべ想像しながら脚本を読み進めるうち興味が湧いてきたんです。監督が得意とするアクションシーンに期待が大きかったのですが、想像以上に素敵に仕上がっていて、観客の皆さんにもアクションシーンを楽しんでいただけると確信しています。

――パク・フンジョン監督の才能についてどんな点が特別だと感じましたか?

演出者としてノワールの雰囲気を作るのに卓越していると思います。会話のシーンであってもとてもインパクトのある、また緊張感を漂わせる演出をされる監督だと思うんです。スクリーンの中にいる俳優たちがその力量以上の演技を発揮できるよう引き出してくださるので、私が持っている力量以上の演技が引き出されたと思っています。

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――アクション演技の魅力とは?

アクション演技そのもの自体に魅力があると思います。監督のアクションの演技は、スピード感がありリアルに描かれ、実際に息の音までもが聞こえてくるような、俳優たちが疲れているところまでも捉えていて観客の目が離さなくなるような魅力があると思います。アクション演技は事前に数十回動線や息を合わせて訓練して臨んでいますが、現場では状況の変化があり、モニターの画面で確認して再度撮影を再開してということが意味のあるものでした。俳優として柔軟にその都度状況に応じて演技をし、それによって監督の演出と共に何かを作り上げるのが意味のあることに感じられたんです。モニターに映った結果を見た時、言葉にできないほど胸がいっぱいになりました。

――走り続けているシーンが印象的で、一糸乱れぬスーツ姿でのアクションにも見惚れました。衣装が破れたこともあったという息を呑むアクションの連続でしたがスーツでのアクション演技はいかがでしたか?

楽ではありませんでした(笑)。俳優としてスーツ姿でアクションを披露することはとても光栄なことだと思います。素敵な姿をアクションで表現できるようにベストを尽くして取り組みました。スーツが撮影しているうちにのびたような感じがして、それで少し楽に演技できました(笑)本当にやり甲斐を感じながら演じました。

――不気味な笑顔の“貴公子”の役作りに参考にされたものはありましたか?

台本にはキャラクターについて「微笑みを湛えている」というト書きが多かったんです。監督からは『時計じかけのオレンジ』の主人公を参考にしてみてはという話があり、悪いことを自覚せず楽しんでいる姿などを重ねて役をビルドアップしました。

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――撮影で苦労した点は?

僕は高所恐怖症なので、橋の高いところから飛び降りるシーンが本当に怖くて忘れられません。もちろん安全装置も完璧な状態でつけているんですが、飛び降りるよりワイヤーで引き上げられる時の方が怖かったです。その恐怖心は忘れられません。

――映画デビュー、初主演作品の『貴公子』で、新人賞も受賞し特別な作品になったと思います。感想は?

新人賞に触れてくださってありがとうございます(笑)。監督が、俳優を輝かせる演出をされたということだと思います。監督やスタッフの皆さんの様々な努力の結果、そのおかげでこのような良い表現ができて、新人賞という意味のある賞をいただけた。率直に申し上げれば、本当にとても幸せに思っています。応援してくださった方々や応援してくれている家族にとっても本当に嬉しい賞になりましたし、僕だけではなく家族も喜んでくれました。一生このことは忘れられない瞬間になりましたし、心に刻まれていくと思います。

俳優として演技ができるということに大きな喜びを感じています。初映画、初主演で、アクションまでこなす姿をお見せできるという作品で、とても緊張感もありましたが大きなワクワクしたし、ときめきを持って臨みました。瞬間ごとに記憶に残る現場でしたしベストを尽くして臨みました。難しい部分は監督やスタッフと話し合いながら情熱的に取り組んだ作品です。私にとっては大きなときめきと喜び、幸せのある作品でした。(日本語で)ありがとうございます。


――映画と舞台の違いは?

最もわかりやすい違いがあるとすれば、観客と向き合っていない、生の反応が返ってこないことがいちばん大きいですよね。演劇から演技を始めた僕にとっては馴染みのない感じがあったのですが、こういう表現をしたら客席からどういう反応が返ってくるのかという蓄積があったので、どのように伝わるのか映画を撮るときに確信のようなものがあった、映画の現場でも確信を持って臨めました。客席からの反応を感じることができない、見えないことや、スタッフや監督と一緒に創り上げていく作業がむしろ新鮮で面白かったです。

ーーご本人は愉快なムードメーカーでリーダーシップがある方だそうですが、貴公子”のキャラクターにいちばん共感できたところはどんなところですか?

このキャラクターに共感できるところはまったくなかったんですが(笑)、ウィットがある部分は共通点として感じていただけると思うのですが、あまりにも違うので、ウィットがあるところがある部分以外はほぼまるで別人といいますか。シナリオを読んだ時にこんなやつがいるのかと思ったほどです(笑)。キム・ソンホという俳優にこんなところもあるんだなって思ってもらえたら嬉しいです。

ーーふんだんに散りばめられたウィットに富んだセリフも魅力的でした。アドリブはありましたか? お気に入りの場面はありますか?

面白いシーンをシナリオにしっかり描いた脚本を監督がすでに書いてくださっていたので。ひとつ思い浮かぶのは、女子高生役の役者さんが「わかった? この貧乏人!」というシーンがあるのですが、監督がその後OKを出さなかったので僕も思うままに「おい、呼んでるぞ!」と言ったシーンがあって、それがそのまま使われています。

ーー時間があったらやりたいことはありますか、日本に来たらいちばんやりたいことは?

4月7日に東京でファンミーティングがあるので、時間に余裕を持って楽しみな気持ちで美味しい店の予約をひとつずつしているところです(笑)。日本語の勉強も始めたところなので、街を歩いて対話をしたり実際に学んで勉強したい気持ちなんですが、今日インタビューでまったくひとつも聞き取れない自分に当惑しています(笑)

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ーーパク・フンジョン監督と『貴公子』のハン役キム・ガンウさん(最新作はドラマ「ワンダフルワールド」)とは「暴君」でも再タッグを組んでいらしてそちらも楽しみです。

ありがとうございます。貴公子とは全く違うキャラクターなので期待して欲しいです。(胸に両手を交差させて当てながら)個人的に「暴君」が公開されると思うと今から心臓がすでにドキドキしています。

パク・フンジョン監督と新人俳優にも注目

緊張していると話し、スタートしたインタビュー。率直に言葉を繋いでくれ、「取材してくださってありがとうございます。健康に気をつけて幸せな1日を過ごしてください。」と素の優しい貴公子ぶりを発揮してインタビューを締めくくった。

昨年韓国で話題となったこの『貴公子』、キム・ソンホが親友たちから、「ポスターのイメージと違って想像以上に面白かった!」と率直な感想をもらったのだそうだが、その意見に激しく共感。完璧なキャストと才能に満ちたパク・フンジョン監督のユーモアの塩梅も流石の演出と脚本、観逃し厳禁の傑作だ。

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また、キム・ソンホが飛行機の中のシーンで初顔合わせし、これからこんな素敵な俳優と撮影ができるのかと思いワクワクしたほど印象的だったというマルコ役の新星カン・テジュにも注目だ。「梨泰院クラス」のキム・ダミを『THE WITCH/魔女』で発掘したのもパク・フンジョン監督。1980倍のオーディションで勝ち取ったマルコ役の彼もハマり役で目が離せない。

配信などプラットフォームが多様化する中、以前の勢いを取り戻しつつあるという韓国の映画業界。昨年は下半期に『ソウルの春』が1000万人以上動員し、劇場の春と称され、2024年3月からは『破墓』もまた1000万人以上を動員し大ヒット中だ。いままた韓国映画から目が離せない。

text: Mari Katsura

関連情報
  • 『貴公子』
    キム・ソンホ、カン・テジュ、キム・ガンウ、コ・アラ
    監督・脚本:パク・フンジョン『THE WITCH/魔女』シリーズ
    製作:Goldmoon PicturesTHE WITCH/魔女』シリーズ、Studio NEW『ソウルメイト』『ビースト』
    2023年/韓国/韓国語、英語、タガログ語/118分/カラー/2.39:15.1ch/原題:귀공자/字幕:関口智恵
    配給:シンカ 宣伝:フラッグ 提供:貴公子フィルムパートナーズ 
    PG-12 公式サイト:https://synca.jp/kikoushi/

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