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「今」を生きる革新的な画家 デイヴィッド・ホックニーの絵画空間へ

デイヴィッド・ホックニー 《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》 2011年 ポンピドゥー・センター © David Hockney Photo: Richard Schmidt

60年以上、現代美術の第一線で活躍するデイヴィッド・ホックニー。86歳を迎えた現在も、自身の芸術を刷新している。日本では27年ぶりの大規模個展で、ホックニーの「今」を体感して。

東京都現代美術館で開催中の「デイヴィッド・ホックニー展」では、初期作からiPadを使用した近年の絵画、全長90mの新作まで、120点余りが展示されている。自身が「私の人生の大半をたどることができる」と語る充実の展覧会だ。

David Hockney デイヴィッド・ホックニー
デイヴィッド・ホックニー ノルマンディーにて 2021年4月1日 作家蔵
© David Hockney Photo: Jean-Pierre Gonçalves de Lima

1937年、イングランド北部に生まれたホックニーは、少年時代から画家を志し、ロンドンの王立美術学校で学んだ。ポップ・アートが美術界を席巻する最中、独自の表現を模索する。自身のセクシュアリティを反映させ、当時は違法とされていた男性同士の恋愛を示す作品も発表した。1960年代にロサンゼルスに移住すると、アメリカ西海岸の陽光のもと、プールやスプリンクラーを題材に描き、脚光を浴びる。水面や水しぶきをどう表現するのか、目に見えるものを平面上に描き出すことへの探究は、この頃すでに始まっていた。

David Hockney デイヴィッド・ホックニー
デイヴィッド・ホックニー 《スプリンクラー》 1967年 東京都現代美術館
© David Hockney

1960年代末から、2人の人物で画面を構成する「ダブル・ポートレート」を制作。ある時、「目に見える現実を再現しようとすればするほど、作品から迫真性が失われる」と気づく。この「自然主義の罠」から脱するため、人物を観察して精緻に写し取り、内面まで捉えることで原点に立ち返ろうとした。その試みは現在に連なり、本展では、最近の作品まで多くの肖像画が展示され、試行錯誤の一端をうかがえる。

David Hockney デイヴィッド・ホックニー
デイヴィッド・ホックニー 《クラーク夫妻とパーシー》 1970-71年 テート
© David Hockney

空間の広がりを考察するなかで、1980年代には、複数の視点で画面を構成する手法にたどり着く。多数の写真をコンピューターで解析し、統合して3DCGを生成するフォトグラメトリなど、新たな技術を柔軟に活用した。2010年4月からはiPadを使用し、新境地を開く。大型の油彩画とiPadドローイングで構成されるシリーズ〈春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年〉では、日ごと変化していく自然の様相、植物の芽吹きを色彩豊かに描いた。注目の作品は、220点のiPad作品をもとに構成した全長90mの大作《ノルマンディーの12か月》。2019年、フランス・ノルマンディーに拠点を移した後、世界はコロナ禍に。ホックニーは1年を通して身辺の自然を描き、絵巻物のような本作を作り上げた。鑑賞者は絵の中に身を置き、季節の移り変わりを眺めて歩く。日常を真摯に見つめる巨匠の絵画空間は、心に明るい光をもたらしてくれるだろう。

David Hockney デイヴィッド・ホックニー
「デイヴィッド・ホックニー展」東京都現代美術館、2023年
左より:《 家の辺り(夏)》(部分)2019年、《ノルマンディーの12か月》(部分) 2020-21年、《家の辺り(冬)》2019年、すべて作家蔵
© David Hockney Photo: Kazuo Fukunaga

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「デイヴィッド・ホックニー展」
会場: 東京都現代美術館 企画展示室1F/3F
会期: ~11月5日(日)
開館時間: 10時~18時(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日: 月曜日(10/9は開館)、10/10
公式サイト: https://www.mot-art-museum.jp/hockney
問い合わせ: 050-5541-8600(ハローダイヤル)

関連情報

Profile

David Hockney デイヴィッド・ホックニー

1937年、イングランド北部・ブラッドフォード生まれ。現在はノルマンディーを拠点に制作。2017年、回顧展が世界各地を巡回し、ポンピドゥー・センター(パリ)では約60万人を動員。

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