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<行定勲のシネマノート>第17回 LGBT 映画について

『アデル、ブルーは熱い色』Blu-ray:4,700円/DVD:3,980円 発売中 発売元:コムストック(c)2013- WILD BUNCH - QUAT’ SOUS FILMS - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - RTBF(Télévision belge) - VERTIGO FILMS

【1月31日 marie claire style】「これメンズですか? レディースですか?」と聞くと「ユニセックスです」などと返ってくる場面が増えた気がする。もしくは「レディースなんですけど、大きめのサイズなら男性のお客様にもいい感じに着てもらえると思いますよ」なんて答えられたりすることも。ちなみに私のかけている黒縁のメガネはまさにレディースである。男ものとか女ものとか関係なく、どっちを嗜好しようが個人の判断で決めればいいという時代になってきた。男女の性別を分け隔てる偏見は昨今、見直されてきている。

 レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとったセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつ、LGBTをテーマにした映画も多く作られるようになった。昔ならば、同性の人を好きになってしまう人間の戸惑いや、その恋心を打ち明けられず苦悩する姿、自らの存在が社会に認められないことへの息苦しさや、差別されることで生まれる負の感情が描かれた。しかし、最近では男女のラブストーリーよりも切ないラブストーリーとなって心に響く。『ブエノスアイレス』『ブロークバック・マウンテン』『アデル、ブルーは熱い色』『GF*BF』などの傑作は世界の映画祭で賞を与えられるくらい素晴らしい。

 同性同士の愛を呼応する姿はまさに神秘的である。同性愛が世の中に受け入れられていなかった時代にも、すでに世界の巨匠たちはそれをテーマに傑作を作っていた。大島渚監督が描いた『戦場のメリークリスマス』や『御法度』の男同士の愛の在り方は、男女の恋愛とは違い、淫靡でありながら危うげな美しさがスクリーンに飽和している。舞台が戦場や幕末であるがゆえ、余計に生と死の間で男たちの情愛が乱反射し、生が艶めかしく浮かび上がっていた。老人が若い少年の美しさに魅了される姿を凄絶に描いたルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』も、想像を超えた退廃的な美をフィルムに収めている忘れがたい愛についての名作だ。

 私も『贅沢な骨』では同居する友だちに密かに心を寄せるレズビアンを描き、『リバーズ・エッジ』の登場人物でいじめられっ子の山田一郎はゲイだった。主人公のハルナに「山田君はするほうなの、されるほうなの?」と聞かれ、「失礼だよ。ゲイだからってすぐにセックスの話をするのは」と山田は彼女をとがめた。LGBTの人たちは性的に奇異な目で見られることも多い。ある意味それは、自分にはない特別なものが彼らにはあって、その感性に驚きを感じているからなのかもしれない。しかし、人間の多様性を認め、それを表現する映画が増えていき、LGBTの存在を理解するきっかけになってきたと思う。偏見ほど世界の視野を狭めるものはない。人間は一人一人違っていいのだ。

 実は今、新たにLGBTについての映画を作ろうとしている。性別など関係なく、人と人が本物の愛に触れ、その感情に気づいていく姿を描こうと思うのだ。

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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