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【シネマ・コレクション】オリンピックの映画といえばこの3本!

名作映画『炎のランナー』の主人公の意外なその後や、ナチス政権下のベルリン大会で大活躍したジェシー・オーエンスを描く映画などを紹介しよう。

新型コロナウイルスの猛威がなかなかおさまらないが、1年延期された東京2020オリンピック・パラリンピックがいよいよ開幕する。今回は、オリンピックに関連する映画を紹介しよう。

日本軍の収容所に入れられたエリック・リデル(ジョセフ・ファインズ、左)は、指揮官からレースを申し込まれた
(C)2017 Goodland Pictures (C) 2017 KD Multimedia Limited Innowave Limited.

『炎のランナ-』のその後

記録映画を別にすると、実はオリンピックを扱う映画はそれほど多くない。それでも冬季大会なら、常夏の国ジャマイカがボブスレーで1988年のカルガリー大会に参加したことを基にした『クール・ランニング』(1993年)や、2002年ソルトレイクシティ大会に出場したカーリング日本チームの女性たちの高校時代を描く青春映画『シムソンズ』(2006年)などのコミカルな作品もあるけれど、なぜか夏季大会はまじめな感動作や硬派な社会派作品ばかりだ。

その中でも最も知られているのは、米アカデミー賞作品賞を受賞した『炎のランナー』(1981年、ヒュー・ハドソン監督)だろう。舞台は1924年のパリ五輪。英国の陸上短距離代表でユダヤ系のハロルド・エイブラハムスと敬虔なクリスチャンのエリック・リデル。100㍍走の予選が日曜日だったため、エリックは聖書の教えに従って棄権、代わって出場した400㍍走で優勝する。あまりにも有名な音楽とともに感動が盛り上がる作品だ。

そのエリックの後日談を描いたのが、『最後のランナー』(2016年、マイケル・パーカー、スティーブン・シン共同監督)。宣教師の道を選び、中国・天津にやってきたエリック(ジョセフ・ファインズ)。日本軍侵攻の中、妻子をカナダに退避させ、人道支援を続けようとしていたが、他の欧米系民間人とともに収容所に入れられる。指揮官であるクラタ少佐が、エリックが金メダリストであることを知り、彼にレースを申し入れる。

『最後のランナー』
DVD発売中(税込み4,290円)
発売元 :ブロードメディア・スタジオ
販売元 :株式会社ハピネット・メディアマーケティング

中国・香港・アメリカの合作作品で、当然ながら、ほとんどの日本兵は理不尽で横暴な悪人として描かれる。唯一の良心的な日本人は、差し入れ物資を背負って収容所に侵入する中国人少年のために、柵に流れる高圧電流を止めようとする兵士ぐらいだ。『太陽の帝国』の伊武雅刀や『戦場にかける橋』の早川雪洲など、外国映画で日本兵が描かれる場合は、主要な日本人キャストはある程度知名度のある俳優が演じることが多いが、この作品では名前を聞いたことがない俳優ばかり。ギャラを抑えようとしたのだろうか。それはともかく、『炎のランナー』の主人公がその後、日本支配下の中国で収容所生活をしていたということ自体に驚かされる。

人種差別をはねのけ、ベルリンで大活躍

「ランナー」つながりで言えば、1936年ベルリン大会で史上初の4個の金メダルを獲得したジェシー・オーエンスを描く『栄光のランナー/1936ベルリン』(2016年、スティーブン・ホプキンス監督)がある。アフリカ系アメリカ人のオーエンス(ステファン・ジェームス)は、オハイオ州立大学でコーチのラリー・スナイダー(ジェイソン・サダイキス)と出会い、その才能を開花させていく。ナチスの人種差別政策に反対し、ボイコットする機運が高まっていた中、参加した米国選手団。オーエンスも「強力な抗議になる」として全米黒人地位向上委員会から不参加を求められたが、「トラックに出れば僕は自由だ。恐怖も憎しみもない。速いか遅いかだけだ」という彼は参加を決意する。

オーエンス(ステファン・ジェームス)は、人種差別的政策を進めるナチス政権下で開かれたベルリン五輪で、驚異的な活躍を見せた
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さてそのベルリン大会。そもそもナチスの威容を世界に知らしめようというヒトラーや宣伝大臣ゲッベルスの意向が強く反映されていた。この映画では、もともと女優で、映画監督として記録映画を撮るレニー・リーフェンシュタールも登場する。100㍍、走り幅跳びと金メダルに輝いたオーエンス。続く200㍍で、黒人選手の活躍を快く思わないゲッベルスは「撮るな」と命じるが、リーフェンシュタールはそれに逆らう。後にIOC会長になるブランデージ(ジェレミー・アイアンズ)も選手団の代表として出ており、ゲッベルスの圧力で400㍍リレーのメンバーからユダヤ人選手をはずすエピソードも描かれている。

また、リーフェンシュタールがオーエンスに走り幅跳びの再撮影を求める場面がある。「これはインチキだ」とオーエンスは言うが、リーフェンシュタールは「あなたのジャンプは歴史を変えた。私はその姿を記録に残して後世の人々に伝えたい」と説得する。砂場の脇に穴を掘って、カメラを置き、迫力の場面を撮り直すのだ。今では許されない「やらせ」だが、徹底的に映像美を求める彼女にとっては、美しい映像を撮ることこそが最優先だったのだろう。この映画には出てこないが、「友情のメダル」で知られる西田修平、大江季雄が2、3位となった棒高跳びの場面も再撮影された。この競技は米国選手と西田、大江の決着がなかなかつかず、夜9時をまわるまで競技が繰り広げられた。本番では撮影できなかったため、後日、選手たちに集まってもらい、照明をしっかりと当てて撮り直したという。

『栄光のランナー 1936ベルリン』
DVD発売中(税込み4180円)
発売元:TCエンタテインメント

帰国後の姿も印象的に描かれる。祝賀会が開かれるレストランで、オーエンス夫妻だけが、ドアマンから「通用口へ」と促される。コーチのスナイダーが「祝賀会の主役だぞ」と抗議しても、正面入り口からの入店は拒否されるのだ。また、100㍍、200㍍、走り幅跳び、400㍍リレーと史上初めて4個の金メダルを獲得した米国のヒーローなのにもかかわらず、ホワイトハウスからは何の声明もなかった。それが、人種差別が当たり前であった当時の米国社会だった。ちなみに、映画では名前は出てこないが、当時の大統領は、ニューディール政策などを行い、今でも人気が高いフランクリン・ルーズベルトだ。足が不自由な障害者でもあり、個人的には人道派のイメージが強かったけれど、よく考えれば、日系人の強制収容所政策を進めたのもルーズベルト。今から見ると人種差別主義的な側面もあったと言えそうだ。

ミュンヘン大会の悲劇の報復


アブナー(エリック・バナ、袋を抱えている男)たち5人は極秘に報復作戦を実行していく
(C) 2017 DW Studios L.L.C. and Universal Studios. All Rights Reserved.

過去には、オリンピックが悲惨な事件の現場となったこともあった。1972年ミュンヘン大会では、パレスチナの武装組織「黒い九月」によるテロ事件が起きた。イスラエル選手団の宿舎を襲って選手やコーチたちを人質にし、収監されているパレスチナ人ゲリラらの解放を要求したのだ。結局、飛行機で脱出しようとした犯人たちと警察側との銃撃戦となり、犯人グループと人質になった11人の選手やコーチたち全員が殺害された。スティーブン・スピルバーグ監督の『ミュンヘン』(2005年)は、このテロ事件の後、イスラエルの情報組織モサドによる極秘報復作戦を描いた映画だ。


『ミュンヘン』 
Blu-ray&DVD 発売中 
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
 

冒頭でテロ事件の模様がリアルに描かれる。当時は警備もきちんとしていなかったようだ。そもそもオリンピック選手団の宿舎が襲われることは想定していなかったのだろう。しかし、1970年代は,世界各地でテロ組織によるハイジャック事件などが相次いでいた時代だ。想定していなかった、では済まされないことだ。人質全員を殺されてしまった、警察側の対応に問題があったようだ。

イスラエルのメイア首相はすぐに報復を決意。情報組織モサドによる極秘報復作戦が実行に移される。実行部隊のリーダーに選ばれたアブナー(エリック・バナ)らは、テロを指導した黒い九月関係者らの所在を確認し、一人ずつ爆弾などで暗殺していく。原作はジョージ・ジョナスの『標的は11人 モサド暗殺チームの記録』。イスラエル当局は、当然ながらこの本の内容を否定している。DVDの特典映像でスピルバーグ監督は、「実際に起きたことを忠実には描いていない」としつつ、「動かぬ事実は三つある。ミュンヘンで選手団が虐殺されたこと。メイア首相が報復を決意したこと。虐殺に関与したと思われる人々が暗殺されたこと。暗殺者の苦悩を描き、問題提起したかった」と述べている。

関連情報
  • Blu-ray、DVDについては2021年6月現在の情報です。

Profile

福永聖二

編集委員、調査研究本部主任研究員などとして読売新聞で20年以上映画担当記者を務め、古今東西8000本以上の映画を見てきた。ジョージ・ルーカス監督、スティーブン・スピルバーグ監督、山田洋次監督、トム・クルーズ、メリル・ストリープ、吉永小百合ら国内外の映画監督、俳優とのインタビュー多数。

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