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シャネルとマンガが出会ったら……。ネクサス・ホールで『約束のネバーランド』とのコラボ展

©白井カイウ・出水ぽすか/集英社

シャネルが、『週刊少年ジャンプ』の人気マンガ『約束のネバーランド』原作者の白井カイウさん、作画家の出水ぽすかさんと協業し、新たなプロジェクトを展開している。まず二人がブランドの歴史に触発されて描き下したコミックを発表。その作品を元に、シャネル・ネクサス・ホール(東京・銀座)で、ストーリーに込められたメッセージやシャネルの貴重なアーカイブが立体的に展示され、シャネルと作者の時代を超えた出会いを追体験することができる。

絵画、写真、ファッション、そしてモダンデザイン……。同時代の芸術家たちを支援してきたガブリエル・シャネルの精神を引き継ぎ、シャネル・ネクサス・ホールでは、これまで様々な展覧会が開かれてきた。その中でも来場者の層が最も多様なのではないか。「シャネル」のことをよく知らずに初めて会場を訪れたというマンガファンのティーンエージャーもいれば、壁一杯に拡大された作品の一場面に目を見張る中高年もいる。いずれも、マンガの中に迷い込んだかのように、変化に富んだ展示そのものを全身で受け止めている様子が印象的だ。

3章仕立ての作品に合わせて会場には三つの入口が設けられ、作品の世界を3次元で体験できる©CHANEL 

題して「MIROIRS – Manga meets CHANEL / Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか」展。日本を代表するポップカルチャーでもあるマンガとの出会いを、シャネル・ネクサス・ホール独自の視点で構成した全く新しい試みだ。「MIROIRS(ミロワール)」とは「鏡」を意味するフランス語の複数形で、4月末に集英社のジャンプコミックスから発刊されたマンガ短編集と同じタイトル。「鏡は厳しく私の厳しさを映し出す。それは鏡と私の闘い。私という人間をあらわにする」と話すガブリエル。彼女自身の多面的な存在を象徴する複数枚の「鏡」がコミックのテーマになっている。

ロベール・ドアノーが鏡張りの螺旋階段でガブリエルを撮影した1955年の写真©Robert Doisneau/GAMMA RAPHO

マンガの世界を3次元で再構成

実際、彼女の美意識が詰まったパリ・カンボン通りのアパルトマンにある螺旋階段は、壁全面が鏡で覆われ、そこに映し出されたガブリエル本人をロベール・ドアノーら著名な写真家が度々撮影。セシル・ビートンも螺旋階段でガブリエルを撮影しており、マルセル・デュシャンのキュビスム時代の名作「階段を降りる裸体 No.2」(1912年)を彷彿とさせる。

マンガは「魔女」「嘘つき」、そして「カラス」の3章で構成。ガブリエルのユニークな哲学や強烈な情熱を体現したかのような3人の主人公のエピソードが、現代の東京を舞台に生き生きと描かれている。展示も、それらのストーリーを元に展開。会場に入って序章となる鏡のコリドーを抜けると、3次元に再構成されたマンガの世界に導かれていく。

第1章の部屋は、スクリーンにガブリエルのアパルトマンの写真が投影され、その場に立ち会っているかのよう©CHANEL

第1章は「Sorcières -魔女-」。本や空想の世界が大好きな少女の物語だ。空想の世界に遊ぶ少女の姿は、様々な書物を通して想像力を育んだガブリエルの姿とも重なる。半透明のファブリックに彼女のアパルトマンの写真などが投影され、ガブリエルのデザインしたリトル・ブラック・ドレスを着たモデルをカール・ラガーフェルドが撮影した写真なども展示。綿密に計算されたインスタレーションを通して、彼女のクリエイションの現場に立ち会っているかのような錯覚に陥る。

第2章の部屋。「シャネル N°5」に関する資料を所々に展示し、自由を謳歌する女性像を重ねた©CHANEL

ステレオタイプな価値観を打ち破るエネルギー

第2章は「Menteuse -嘘つき-」。この章では、自由気ままな日々を過ごしながら、本当の自分に向き合う不安を抱える女性が主人公。そんな女性たちへの共感を込めて、「女性そのものを感じさせる、女性のための香り」を生み出したいというガブリエルの思いから生まれた「シャネル N°5」に焦点を当てた。彼女が様々なクリエイションを通して女性にもたらした自由を、時を経た東京で謳歌する主人公のイラストで構成された空間に、フランスから取り寄せた「N°5」にまつわる貴重な資料を展示している。

第3章の部屋はカラフルな構成。「人と違っている違っていること]を尊重する思いを表現しているかのよう©CHANEL

第3章は「Corneille noir -カラス-」。こちらはステレオタイプな価値観の中で息苦しさを抱える少年の物語だ。そんな少年の思いに、「かけがえのない存在であるためには、人と違っていなくてはならない」と話したガブリエルの言葉を重ねる。自らの道を切り開こうとする少年たちの姿にエールを送るかのように、時代の趨勢にあらがったシャネルの反骨精神を紹介。カラフルなインスタレーションで構成された空間に展示された1950年代のリップスティックや広告ビジュアル、さらにジャン・モラルによるガブリエルのポートレートなどが目を引く。

ユニセックスなコーディネートのガブリエルとダンサーで振付家のセルジュ・リファール。ガブリエルは男性服に使われていたツイードやジャージー素材を女性服に取り入れ、自身も男性服をそのまま身に着けることもあった。写真には、“To my brother Serge, Coco“と書かれている Photo Jean Moral ©Brigitte Moral SAIF Paris

展示を見終わると、2次元のマンガの世界を登場人物になって自由に歩き回り、彼らとと同じ時間と空間を共有しているような不思議な感覚になる。その過程で、ガブリエルの強烈なキャラクターとクリエイションにも触れられる。白井さんは今回の企画展について、「ガブリエルの数ある多面の一部をモチーフにして、各章それぞれの物語を組み立てました。ガブリエルの多面性を何枚もの鏡に見立て、また、ガブリエルのアパルトマンの印象的な鏡の数々をイメージして、タイトルは『MIROIRS』にしました」とコメントを寄せている。東京での展示は6月6日までだが、企画展は9月に開催される「KYOTOGRAPHIE 東京国際写真祭」に巡回する予定。

書籍情報
『miroirs(ミロワール)』
原作:白井カイウ、作画:出水ぽすか
定価:¥997
レーベル:ジャンプコミックス
発行:集英社

展覧会情報
MIROIRS – Manga meets CHANEL / Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか
会期:~6月6日(日)
開館時間:11:00~19:30 *6月5日、6日は10:00より開場
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3シャネル銀座ビルディング4F)
入場無料・要予約(詳細はウェブサイト参照)
URL:https://chanelnexushall.jp/program/2021/manga/
TEL:03-3779-4001(シャネル・ネクサス・ホール事務局)


Profile

高橋直彦

マリ・クレール副編集長。昨年、42年ぶりに復刻されたアナログシンセ「SEQUENTIAL Prophet-5 rev.4」を買うべきか否か。

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