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【リゾナーレを唎く】那須で見つけた「トスカーナ」。その魅力をリゾナーレ那須のダイニングで堪能する

那須岳の山裾に2019年11月1日、開業した「星野リゾート リゾナーレ那須」。農業体験を取り入れた「アグリツーリズモリゾート」を掲げ、那須の大自然の中でユニークなリゾート滞在を楽しめる。メインダイニングの「OTTO SETTE NASU(オットセッテナス)」で供されるイタリア・トスカーナ地方のコース料理も滞在の大きな楽しみの一つ。豪快とされる郷土料理がシェフの手を経て洗練された一皿に生まれ変わっていく。地域に親しみのある食材をふんだんに使い、料理というより、「春」という季節そのものをいただいている感覚。この地で、この季節にしか味わえない希有なガストロノミー体験をあなたにも。

午前中、勤め先の東京・大手町で会議にいくつか出て、昼過ぎ、会社近くのカフェでトマトとモツァレラのサンドイッチを知人と頬張る。それからオフィスに戻って原稿を書き、外で人と会う。それが一日の大まかなルーティン。ところがこの日は違う。カフェからJR東京駅へ歩いて向かい、午後1時12分発の東北新幹線なすの259号に飛び乗った。車内で、昨年11月に急逝したヴァージル・アブロー(ルイ・ヴィトンの黒人初となるメンズ・アーティスティック・ディレクター)の追悼記事が掲載された男性誌と文芸誌に目を通し、まだ時間に余裕があったので、車内誌の『トランヴェール』3月号に掲載されていた沢木耕太郎さんの巻頭エッセイの最終回を読んでいると、目的地の那須塩原駅に着いた。午後2時20分。晴天。

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山懐に抱かれるーー。そんな表現が相応しい「リゾナーレ那須」。右下の建物が開業に際して新設された「POKO POKO」

広大な敷地で非日常を満喫する

東京から約1時間。旅をしているという感覚はまだ薄い。それでも駅から30分ほど送迎バスに揺られ、葉を付ける前のコナラの林が深くなるにつれ、血中の「非日常濃度」が増していく。突然、目の前が開け、コンクリート打ち放しになった「リゾナーレ那須」のレセプションがゲストを迎え入れてくれた。約13万8600平方メートルの広大な敷地(東京ドーム約3個分の広さ!)に水田やハーブ作りなどを楽しめるグリーンハウスなどがあり、「クライン ダイサム アーキテクツ(KDa)」がインテリアを手がけた43の客室が点在。円錐形の屋根が目を引く建物は、同じくKDa設計によるアクティビティ施設「POKO POKO」だ。リゾナーレブランドとしては4軒目となる。

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メゾネットタイプの客室。それぞれの客室で異なる景観を楽しめる
アグリガーデンでは四季に応じて様々な野菜やハーブなどが栽培され、ダイニングの料理などにも使われる

農業体験を取り入れた旅の新しいスタイル

「アグリツーリズモ」とは、イタリア語で「アグリクルトゥーラ(農業)」と「ツーリズモ(観光)」を掛け合わせた造語で、農業や自然体験を軸に旅を楽しむスタイル。地域の魅力をダイレクトに感じられると、発祥のイタリアでは結構盛んで、10年以上前、イタリア北部のベルガモ郊外で酪農家が兼業で営む宿泊施設を利用したことがある。「リゾナーレ那須」はその日本版。恐らくリゾート施設としては日本初の取り組みだろう。メインダイニングの「OTTO SETTE NASU」で出されるディナーもそのコンセプトに貫かれている。宿泊客専用で1日7組限定。

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ダイニングの劇的な空間が非日常の感覚を演出してくれる

天井高6.15メートルのゆったりとしたダイニングに階段を使って降りていくと、料理への期待がいやが上にも増してくる。出される料理は、那須と気候や風土が似ているトスカーナ地方の郷土料理をベースにしているという。5月26日までは、菜の花やフキノトウ、ウド、そして苺などの旬の食材を使った春限定のメニューを楽しめる。もっとも、トスカーナの現地で食べた料理は、素材を丸ごと使って、あまり手を加えない豪快なものが多かったと記憶しているのだが……。それが北浦琢視(たくみ)総料理長の手にかかると、どのように繊細な一皿へ変わるのだろう。料理に合わせてソムリエが厳選したワインとのペアリングも楽しめる。

多彩な郷土料理を収めた宝石箱のような前菜

スターターはイカスミやバジルなど4色のグリッシーニ。それにマルケジーネのフランチャコルタ・ブリュットNVを合わせた。熟成庫で瓶内2次発酵に2年以上をかけ、しっかりとしたボディが特徴。実はこのフランチャコルタ、コストパフォーマンスにも優れ、懐に余裕がある時、自宅でも愛飲している。フルートグラスに注がれたフランチャコルタを飲み干すと、心のどこかで「食事スタート」の号砲が鳴った気がする。

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彩り豊かな小さな前菜

次の「彩り豊かな小さな前菜」はある意味、北浦総料理長の思いを反映した料理だろう。トスカーナの多彩な郷土料理の粋を前菜として盛り合わせているからだ。例えば、上段左側のバッカラマンテカートはジャガイモと鱈を使ったペーストで、この地方ならではの料理。一方、同右端はトスカーナならどこでも見かけるレバーのソテー。それを真ん中の無塩パンのトーストに付けて食べる。ほかにもナスのカポナータ(下段手前左端)やパッパ・コルポモドーロ(パンとトマトを使った粥、同中央奥)など、トスカーナ料理を総覧するミニチュアを収めた宝石箱のよう。

こうした多彩な味覚をカバーできるワインはあるのだろうか? ソムリエの選択はヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ・リゼルバ・オリ2018。造り手はイル・パラジョーネ。トスカーナを代表する白ワインで、柑橘系の味わいと同時にミネラルも感じられる。口当たりは柔らかいのに、余韻が長く続く。トスカーナの料理に、同じ地区で造られたワインが合わないわけがない。全てを知り尽くしたプロにワイン選びを任せることで、食事に集中できるのがペアリングの醍醐味でもある。

農園のピンツィモーニオ

地域の食材を使った華やかな一品

冷前菜の「農園のピンツィモーニオ」も華やかな一皿だ。ピンツィモーニオとはドレッシングのこと。施設内の「アグリガーデン」で採れた野菜や地域の恵みを、地元出身の陶芸作家による漆黒の皿に飾るように盛りつけた。これは、余計なことを考えず素材そのものの味や香りを楽しむ。この季節は冷たいバーニャフレッダソースに付けて。ワインも野菜の味わいを邪魔しない方がいいだろう。出されたのはアッカディーアのマルケ・ロザート2017。爽やかで春らしい桜色のロゼワインだ。

菜の花のスフォルマート

視覚、嗅覚、そして味覚。いずれでも楽しめる

見た目でも、香りでも、もちろん、その味わいも楽しめる「菜の花のスフォルマート」は、この季節ならではの一品。スフォルマートは茶碗蒸しのような料理で、これもトスカーナではポピュラーな料理だ。もっとも、現地で供されるものの見た目は今ひとつだったような。それを北浦総料理長が手がけると、雪が溶けて菜の花の芽吹きをイメージした繊細な料理になる。器の底にはほろ苦い菜の花のスフレがあり、その上にコクのあるミルクのフォームを載せた。合わせたワインはカサルファルネートによるチマイオ2016で、100%ヴェルディッキオから造られているが、貴腐菌が少し付いた状態でブドウを真冬に収穫するため、できあがったワインはフランベしたバナナやハチミツの上品な甘さが感じられる。菜の花の苦みとワインのいぶしたようなトースト香が絶妙にマッチする。

猪肉と半熟卵のトンナレッリ

複雑で力強いパスタに合わせるワインとは?

パスタは「猪肉と半熟卵のトンナレッリ」。トンナレッリとは断面が四角い卵入りのロングパスタだ。パンチェッタの代わりに猪肉を使ったカルボナーラを想像してもらえればいい。猪肉と半熟卵がパスタと混然一体となった、野趣あふれる味わい。合わせたワインはサグランティーノ・ディ・モンテファルコ2015(ミルツィアデ・アンタノ)。ノンフィルターで造られたパンチのあるスパイシーな味わいが、パスタの力強さに引けを取らない。

魚介とフルーツトマトのスプマンテ蒸し

トマトの酸味と魚介の香りが広がる絶品

次は魚料理だ。「魚介とフルーツトマトのスプマンテ蒸し」。ポモドーロの形をした真っ赤なストウブに入ったまま卓上に出された。プロシュートとペースト状の貝をメバルの切り身で挟み、フルーツトマトやアサリとともにスプマンテで蒸し上げた。蓋を開けた瞬間、魚介の香りがふわりと広がる。スタッフがそれを取り分け、5種類のハーブを載せていただく。これも目で見て、香りを楽しみ、そして魚介の旨みを堪能できる贅沢な一品だ。これにはヴェルメンティーノ・ソラーレ2015を合わせた。造り手のカステッリーナはビオディナミコに力を入れていることでも知られる。自然派らしいきりりと引き締まった酸味とハーブのニュアンスが、トマトの酸味がアクセントになっているスプマンテ蒸しの味わいを引き立てる。

牛肉のアロースト

絶妙の火入れが成された牛肉の美しさ

メインは「牛肉のアロースト」。説明は無用だろう。もっとも、現地で注文すると、黒焦げになった巨大なTボーンステーキ(ビステッカ)が皿にボンと載って出されることが多いのだが……。それはそれで美味しいのだが、ここでは違う。絶妙に火入れされた牛肉にフキノトウやウドといった苦みのある山菜を使ったコンディメントが添えられ、春の味覚も堪能できる。合わせたのは、やはりトスカーナの銘醸ワイン、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2014(イル・コッレ)。サンジョベーゼの魅力を丁寧に引き出したクラシックな造りで、料理に加え、ダイニングの心地よい雰囲気も象徴しているような気がしてくる。

苺のデクリナツィオーネ

苺の多彩な味わいを楽しめるデザート

締めくくりは「苺のデクリナツィオーネ」。苺のチョコレートムースの上に、苺や柚風味のキャラメルディスク、そしてメレンゲのスティックを添え、様々な食感を楽しめる。酸味をきかせたソースやクリームなどと合わせることで、この季節の苺ならではの甘酸っぱさを楽しめる。

「トスカーナ州を中心とした郷土料理の手法を用い、地域の生産者がこだわりを持って育てた、食材そのものの美味しさを追求していきたい」と話す北浦総料理長

スターターに続く8品のコースはいずれも洗練され、調理法から料理のプレゼンテーションまで、作り手の意識が隅々まで行き渡っていることを感じさせた。一応、トスカーナ地方の郷土料理を看板にしているが、実際に食べると、思い描いていたイタリア料理のイメージを凌駕し、「OTTO SETTE NASUの料理」であり、何より「北浦総料理長の料理」としか言いようのない繊細なコース構成になっていた。このコース目当てに「リゾナーレ那須」に滞在することも、それほど理不尽なことではないかもしれない。宿泊に料理が付いているのではなく、料理に宿泊が付いている――。そんな感覚で、贅沢なリゾート滞在を演出してくれる絶好のダイニングが那須にあった。

お問い合わせ先

「春限定のディナーコース」概要
■期間:~2022年5月26日
■料金:大人15,730 円、ワインペアリング8,000 円、7~11歳向けメニュー 9,100 円、4〜6歳向けメニュー 6,500 円(いずれも税・サービス料込)*宿泊料別、無料託児サービス利用可能
■予約:公式サイト(https://risonare.com/nasu/)で3日前15:00までに要予約
■時間:17:30~、または18:00~
■場所:リゾナーレ那須 別館棟
■対象者:宿泊者
■備考:状況によりメニューの内容、食材が一部変更になる場合があります。


星野リゾート リゾナーレ那須
■所在地:〒325-0303 栃木県那須郡那須町高久乙道下2301
■電話番号:0570-073-055(リゾナーレ予約センター)
■施設構成:宿泊棟(本館・別館)、メインダイニング、ビュッフェレストラン、アグリガーデン、POKO POKO、大浴場(男湯・女湯各1か所)、ラウンジ
■客室数:43室(部屋タイプ:15)
■チェックイン15:00/チェックアウト12:00
■料金:1泊24,000円~(2名1室利用時1名あたり、税込、朝食付)
■アクセス:[電車]JR東北新幹線「那須塩原駅」より送迎バス40分、[車]東北自動車道那須 I.C.より20分
■開業日:2019年11月1日
■URL: https://risonare.com/nasu/

関連情報

Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。洗練されたトスカーナ料理と聞いて、フィレンツェに本店があり、銀座に出店していたエノテーカ・ピンキオーリというリストランテ(2010年閉店)を思い出した。1990年代後半だったと思うが、ここで初めて食事をして、フランス料理や日本料理のように創造力を駆使した繊細な「イタリア料理」があることを遅ればせながら識った。OTTO SETTE NASUで食事をしていて、2000年代に地方に急速に広がったイタリア料理店の記憶も甦ってきた。いわゆる「地産地消」をテーマに山形・庄内地方にオープンしたアル・ケッチァーノが話題になったのもこのころではなかったか。ここ10年はカウンター主体の地元密着型の店が増え、気軽に料理を楽しめるようになった反面、ハレの感覚に乏しいのをやや残念に思っていた。そんな時にOTTO SETTE NASUを訪れたので無性にうれしくなった。街場のイタリア料理店のようにオーダーを反芻する大声のイタリア語や妙に距離感の近い接客とは無縁だが、ゴージャスな空間で受ける的確なサービスと、何より手の込んだ端正なイタリア料理に出会えたからだ。「もっと近くにあれば」と一瞬思ったが、猛省。那須にあるからこそ、この祝祭的な感覚も増感されるのだろうと思い直すことにした。

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