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【星のやを唎く】富士北麓で五感を解き放つ。「星のや富士」で堪能するグランピング

クラウドテラスのウッドデッキに木漏れ日が映える

星野リゾートが2005年から国内外で展開する宿泊施設「星のや」の多彩な魅力を体感する「星のやを唎く」。今回訪れたのは、日本初のグランピングリゾートとして15年秋に開業した「星のや富士」。河口湖を眼下に望む絶好のロケーションで、自然の恵みを満喫できる。木々が芽吹き、野鳥のさえずりが賑やかになる春、ここでしか得られない非日常の体験がゲストの五感を軽やかに解き放つ。

愛車を駆って東京・新宿から中央道をひたすら西へ進む。車窓から見える富士山が大きくなるに従って、日常から解放される感覚が高まっていく。大月で東富士五湖道路に入って河口湖インターで降りる。ここまでゆっくり走って約1時間半。後は湖沿いに一般道を20分ほど走っただろうか。湖畔にある「星のや富士」のレセプションに着いた。この日は晴天。夕方の富士山は、体に覆い被さってくるほどの大きさになっていた。

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ゲストはこのレセプションに立ち寄ってからキャビンへ向かう

レセプションは周到に用意された非日常への窓口

もっとも、ここに宿泊施設はない。滞在中に使う双眼鏡や水筒などの入った色とりどりのリュックを選び、スタッフの運転する専用のSUVで客室へ向かう。その間、わずか数分。しかし、そのプロセスが大切なのだ。茶事で客が外腰掛で気持ちを整えてから席入りするように、ゲストはSUVの後部座席に座っている刹那、日常を離れ、非日常の世界へといざなわれていく。

河口湖に突き出すように建つコンクリート打ち放しのキャビン

6ヘクタールの広大な敷地で思い思いの時を過ごす

河口湖を見下ろす丘陵地に、「キャビン」と呼ばれる客室40室が点在し、その上にフロントとダイニングを備えるメイン棟がある。さらに階段を上っていくと、森の中で焚き火の灯るクラウドテラスが続く。敷地の広さは約6ヘクタール。標高は最も低い所で約830メートル、最も高い所で約930メートル。滞在中、ゲストはこれらの施設を自由に行き来しながら、思い思いの時間を過ごす。

クラウドテラスの焚き火ラウンジには、早朝から夜まで絶え間なく炎が灯り、ゲストを温かく迎える

朝から晩まで多彩な活動プログラムを用意

「グラマラス」と「キャンピング」をかけ合わせた造語が「グランピング」。19~20世紀初頭、ヨーロッパ貴族たちが遠征先で日常と変わらない快適な環境を求めたライフスタイルに由来するとされる。自然を満喫しながら、心地よい滞在を提供するリゾート施設の先駆けだけに、朝から晩まで多彩なアクティビティが用意されている。焚き火のそばでアウトドア専用のコーヒー豆を使って淹れたてのコーヒーを楽しんだり、「グランピングマスター」と呼ばれるスタッフに教わりながら斧を使って薪割りに挑戦したり。「グラマラス富士登山」というラグジュアリーな登山プログラムも毎年夏に企画されて話題になっている。とにかく、滞在中、退屈することはない。もちろん、絶景を肴にキャビンでのんびりしているだけでもいい。

グランピングマスターの手ほどきを受けながら行う薪割りは人気のアクティビティ
キャビンのインテリアはミニマリズムの極致。室内にいながら自然と一体になれる
キャビンテラスのファイアプレイスがロマンチックな雰囲気を演出する

このキャビンを設計したのは東利恵さん。建築好きならピンときた人もいるかもしれない。父親は、極小住宅の傑作とされる「塔の家」(1966)を設計した東孝光さんだ。さて、キャビンに入るために扉を開けた瞬間からアッと声を上げそうになる。正面の壁面全体がガラス張りになっていて山並みと河口湖が眼に飛び込んでくる! 本当に飛び込んでくるのだ。その絶勝を邪魔しないよう、白を基調としたスコープ状の室内は余計な装飾を省いたミニマリズムに徹している。光の存在を意識させるインスタレーションで知られるジェームズ・タレルの作品内に留まっているような感覚。全室にファイアプレイスのあるテラスが設けられ、夜は酒杯片手に揺らめく炎を眺めながら、俗事から解放された時間にゆったりと身を委ねられる。

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山菜のバーニャカウダとフリット。食事の前に歩いた山で摘んだ山菜を食材に使うことも

食事も重要なアクティビティの一つ

ここでは食事も重要なアクティビティの一つだ。例えば、4月25日から始まる「春山・狩猟肉(ジビエ)ランチ」。食事の前に、狩猟歴40年以上になるベテラン猟師と春山を歩き、山菜や鹿や猪などの食材について学ぶ。その後、森の中に設けられた開放的な特別席で、春ならではの食材をふんだんに使ったコース仕立てのランチを味わえる。午前中の山歩きでは、猟師の指導を受けながら山菜を採る。ランチでそれをフリットなどにして楽しめる。猟師から学んだ自然の知識が、料理の味わいを一層深めてくれる。

鹿肉の山椒塩釜焼き。春先特有の鹿肉の旨みと山菜のほろ苦さがマッチする
ランチ用の特別席では、春の麗らかな陽気を感じながら食事ができる

「星のや富士」では、開業当初から有害鳥獣駆除などで得た狩猟肉の有効活用に取り組んできた。このコースでも、山菜のバーニャカウダとフリットや山桜のジビエコンソメに続き、メインで「鹿肉の山椒塩釜焼き」が供される。笹の葉に包んだ鹿肉を塩釜で覆い、焚き火にかけて蒸し焼きにする。とりわけ、春先の鹿肉は繊細な旨みを感じられるという。1日1組限定。午前9時から午後2時半までかけて、春の恵みを味わい尽くすゴージャスな企画だ。まさに、この場所、この季節、このスタッフたちがそろって初めて体験できる「星のや富士」ならではのアクティビティ。春の陽気を感じられる心地よい空間で、とびきり優雅なひとときを楽しむことができる。

岡田紅陽の碑は、彼の愛した富士に面して建立されている(撮影・高橋直彦)

富士を眺めながら、紅陽の碑まで走ってみる

さて翌朝、少し早起きしてキャビンを飛び出し、湖畔を走ってみた。どうしても行ってみたい所があったからだ。「富士の写真家」として知られる岡田紅陽(1895~1972)の顕彰碑。生涯撮影した富士山の写真は40万枚以上にもなるとされ、現在の千円札紙幣裏面に印刷されている逆さ富士の図案も彼の撮影した写真が基になっている。碑は河口湖大橋たもとの産屋ヶ崎にひっそりとあった。キャビンからは5キロほど距離で、千円札と同じ逆さ富士を眺めながらゆっくり走って約30分。碑は湖越しに富士と向き合い、題字を自身も富士の画を多く描いた横山大観、碑文を徳富蘇峰、そして三脚を担いだ岡田のレリーフを朝倉文夫が手がけている。この顕彰碑、通りからは見えず、個人的には河口湖の隠れた名所だと思う。

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モーニングBOXにはダッチオーブンで焼いたブレッド類も。この食事から新しい一日が始まる

モーニングBOXは自然を食べている感覚

「どうせなら」と、来た道を引き返さず、河口湖大橋西側の湖畔を1時間ほどかけて走ってキャビンに戻ると、バスフィッシングの釣り具を入れるタックルボックスをイメージした木箱に入った「モーニングBOX」が届けられた。中にはヨーグルトや、苺と春菊のサラダ、根菜のスパニッシュオムレツ、そしてロースト野菜とソーセージなどが入っていてボリューム満点。それをテラスにセッティングしてもらって食べた。運動して熱いシャワーを浴びた後だったので、前夜の酒も抜けて美味しくいただくことができた。素材も地場のものが多いのだろう。一品一品、味がしっかりしていて、「朝食をとる」と言うより「自然そのものを食べている」という感覚に近い。

ランニング途中、スマホで撮影。周囲にだれもいないこともあって、富士山を独り占めしている気分になった(撮影・高橋直彦)

富士山は平地に聳え、基底部の直径が約40キロにもなる世界でも希な火山。唯一無二だから「不二」とも書く。さらに霊峰としての威容も尽きることがないから「不尽」でもある。「星のや富士」にも同じことが言えるかもしれない。圧倒的な非日常を提供するグランピングリゾートとして、ほかにはない宿泊施設だから「不二」。そして、ゲストを退屈させないユニークなアクティビティが豊富に用意され、スタッフのホスピタリティにもあふれているから「不尽」である。「富士」は「不二」であり「不尽」でもある。その「富士」を「星のや富士」と言い換えても、それほど間違っていない気がする。

お問い合わせ先

「春山・狩猟肉(ジビエ)ランチ」概要
■期間: 2022 年 4 月 25 日~6 月 10 日
■料金: 1 名 39,930 円(税・サービス料込)*宿泊料別
■時間: 9:00~14:30 対象
■対象:中学生以上 定員
■定員:1 日 1 組(2~3 名)
■予約方法: 公式サイト(https://hoshinoya.com/fuji/)にて 2 週間前までに予約
■備考: 悪天候の場合は、内容を一部変更、中止する可能性があります。 仕入れ状況により、料理内容が一部変更になる場合があります。


星のや富士
■所在地: 〒401-0305 山梨県南都留郡富士河口湖町大石 1408
■電話: 0570-073-066(星のや総合予約)
■客室数: 40 室・チェックイン:15:00/チェックアウト:12:00
■料金 :1 泊101,000 円~(1 室あたり、税・サービス料込、食事別)
■アクセス: 河口湖 IC から車で約 20 分


 

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Profile

高橋直彦

マリ・クレール副編集長。煙草も止めたし、自宅の調理コンロもIH式。「星のや富士」で「生の炎」を久々眺めた。焚き火で、ダイニングで、そしてファイアプレイスで……。揺らめく炎にこんなに癒やされるとは。

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