理屈抜きで見入ってしまう戦後の民衆木版画。その魅力の源泉を東京・町田の郊外で考える【what to do】
展示を紹介するヴィジュアルも木版画風(撮影・高橋直彦)
知的好奇心あふれる『マリ・クレール』フォロワーのためのインヴィテーション。それが”what to do”。今回は木版画。小学生の時、授業で木版画をあんなに熱心に作ったのはどうしてなのか? その謎を解き明かす好企画が東京の町田市立国際版画美術館で開かれている。「彫刻刀が刻む戦後日本-2つの民衆版画運動」展。実は戦後の文化運動が影響しているらしい。作品の多くが素朴な風合いで、作り手もアマチュアが多い。それなのになぜだか見入ってしまう。「ソーシャル・エンゲージド」何とかとか、「ビルケナウ」がどうしたとか、現代美術のジャーゴンにうんざりしている人にもおすすめだ。
木版画を面白いと思ったのは、2019年の冬のこと。群馬県のアーツ前橋で「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s」という展示会を観たのがきっかけだ。感情をストレートに表現し、社会問題を告発、さらに遠隔地の人たちと連帯を求める「メディア」としての木版画を取り上げた。特殊な素材や道具を必要とせず、安価に複製できるため、アジアの政治・社会運動の中で木版画が広く制作された。
アジアの木版画運動で魅力を識る
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作品の多くは荒々しく、仕上がりもチープだが、力強い。むしろ、それが味となっている。インド、シンガポール、フィリピン、そしてベトナム……。国やテーマは違っていても、作風が似ている点も興味深かった。その時に思い出していたのが、小学校の授業でさんざんやらされた木版画のこと。反転する仕上がりのイメージを抱けず、小さな星印が整然と配置された煙草のパッケージを木版画にして、担当教師に呆れられたことがある。
それにしてもどうして木版画をあんなに作らされていたのか――。子どものころから抱いていた疑問に答えてくれるかもしれないと、今展のタイトルをチラシで見かけた時から興味を持っていた。で、観た。面白かった。展示作品の多くが素朴な仕上がりだが、その背景には戦後の文化運動が影響していて、実に奥が深いことも伝わってきた。