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秋のお墓散歩に役立つ おススメの6冊

なんとなく人恋しくなる秋の休日、散歩の途中に好きな作家のお墓を訪ねてみてはどうでしょうか。きっと心が洗われると思います。

「掃苔」ということばがあります。「お墓の苔を掃く」という意味から転じて、「お墓参り」のことをさします。江戸時代の文人たちが先人のお墓を参り、その人柄を偲んでいたことにならい、明治の文豪、たとえば森鷗外や永井荷風、小泉八雲ら多くが頻繁にお墓参りをしています。その系譜を継ぐ人たちはいまでもいて、最近は、かつての掃苔家のことを、「墓マイラー」と呼ぶそうです。秋のお墓散歩に役立つおススメの6冊をご紹介します。

『文学者掃苔録図書館』 墓マイラー必携の1冊

まずは、『文学者掃苔録図書館 作家・詩人たち二五〇名のお墓めぐり』(大塚英良著、原書房)です。著者が本業の仕事のかたわら、趣味で文学者のお墓を全国に訪ね歩いた20年以上にわたる記録の集大成です。1ページに1人ずつ、50音順に紹介されていて、その人物の短い評伝に加え、欄外にプロフィルとお墓の場所データなどが掲載されています。夏目漱石や谷崎潤一郎、川端康成といった大御所から、三島由紀夫、遠藤周作、向田邦子といった往年の人気作家まで、幅広く人選されています。この250人分だけでも十分役立つのに、さらにありがたいことには、巻末に約1000人分の墓所データが収録されています。墓マイラー必携の1冊といえるでしょう。

『文豪お墓まいり記』 穏やかな死生観が心に沁みる

作家の山崎ナオコーラさんに、『文豪お墓まいり記』(文藝春秋)という、タイトルにある通り、文豪のお墓参りを綴ったエッセイ集があります。こちらの本で、ナオコーラさんは、永井荷風、澁澤龍彦、森茉莉、有吉佐和子ら26人の墓をめぐっています。収録されているエッセイは、文芸誌『文學界』の2015年3月号から2017年8月号までにわたって連載されたもので、ナオコーラさんの父親の死とご自身の流産、第1子出産の時期と重なります。それらの経験を通じて得ることになった、ナオコーラさんの肩ひじはらない、穏やかな死生観が読んでいて心に沁みます。

『断腸亭日乗』 “掃苔文学”の最高峰

先に名前の出た永井荷風の『断腸亭日乗』(岩波書店)は、日記文学の最高峰と評されていますが、もし“掃苔文学”というジャンルがあるとしたら、その最高峰ではないかと、個人的に勝手に評価しています。続いて、この1冊を紹介します。

『断腸亭日乗』は、荷風先生が38歳のときに書き始め、79歳で亡くなる前日まで、41年あまりにわたって書き続けた日記です。その中には、先人の墓に参ったとの記述が、何度も出てきます。たとえば、次のようにです。一部を抜粋します。

大正十一年九月十五日 松莚小山内の二子と車を與にして深川萬年町心行寺に赴き、鶴屋南北の墓を掃う。

大正十一年九月十七日 午後雑司ヶ谷墓地を歩み小泉八雲の墓を掃う。

大正十二年八月十九日 午後谷中瑞輪寺に赴き、枕山の墓を展す。

文芸評論家の川本三郎さんによる『荷風と東京 「断腸亭日乗」私註』(都市出版)は、荷風先生の人生と作品の成り立ちを詳細に考察した力作で、その中で荷風先生の掃苔趣味について、1章まるごと、「探墓の興――墓地を歩く」で紹介しています。

それによると、荷風先生は、フランス遊学中にも、モーパッサンやゾラの墓を訪ねているそうです。荷風先生が掃苔趣味に没頭した理由について川本さんは、荷風先生が抱く時代の生きにくさから生じた過去追慕を挙げ、こう解説しています。

「荷風の探墓癖はこの過去追慕からの当然の帰結である。寺の墓所こそ、文明ではなく文化という良き過去が静かに眠っている場所なのである。」(『荷風と東京 「断腸亭日乗」私註』P.280)

章の途中には、【荷風が訪れた主な寺と墓】のリストが掲載されています。『断腸亭日乗』を読む際に参照していただければと思います。

『今日はお墓参り』 新たな発見にめぐりあえるエッセイ集

その川本三郎さんは、『今日はお墓参り』(平凡社)というタイトルのお墓参りのエッセイ集も出されています。この中で川本さんは、映画監督、俳優、作家、画家、漫画家など18人の墓を参り、エッセイに綴っています。その人選がなかなか凝っています。作家の有吉佐和子、芝木好子、女優の田中絹代、映画監督の成瀬巳喜男となると広く名の知れた存在ですが、漫画家の寺田ヒロオ、画家の長谷川利行、作家の龍膽寺雄ともなると、知る人ぞ知るといった趣です。エッセイや評伝に、自分の知らない作家やその作品が紹介されていたのをきっかけに、実際に読んでみて、新たな発見にめぐりあえることがよくあります。川本さんの文章からは、そういった“発見”を数多く得ることができます。ぜひ、このエッセイ集を読んで、新たな発見にめぐりあってください。

『大拙と幾多郎』 お墓めぐりファンにはたまらないエピソード

次に紹介する『大拙と幾多郎』(森清著、岩波現代文庫)は、お墓めぐりを趣味にする人向けに書かれた本ではありません。同じ年に石川県で生まれ、旧制第四高等学校の同級生だった仏教学者・鈴木大拙と哲学者・西田幾多郎の不思議に絡み合う人生の歩みを記録した評伝です。その冒頭に、お墓めぐりファンにはたまらないエピソードが紹介されていたので、取り上げることにしました。

序章「ある墓所の物語」には、北鎌倉の臨済宗円覚寺派・東慶寺の墓地の一角に、大拙と幾多郎の墓と並んで、岩波書店の創業者・岩波茂雄、英文学者・野上豊一郎と作家・野上弥生子夫妻、出光興産の創業者・出光佐三、安宅産業の創業者・安宅弥吉といった、わが国の文化・産業の振興に大きな功績を残した人たちのお墓が密にしている様子が描かれています。禅を通じて築かれたネットワークです。

これだけ著名人のお墓がまとめてお参りできる墓所もなかろうと思い、一度訪ねてみたことがあります。東慶寺には、作家の高見順のお墓もあることを、事前に調べて知っていたので、合わせて探してみました。なかなか見つかりません。寺内を掃除しているおじさんに聞けばすぐわかるものの、自分で探し当てた方が達成感は大きいと思い、30分ほど探し続けていると、気の毒に思ったおじさんが、「だれのお墓を探しているの?」と助け船を出してくれました。墓所の端から山肌にそって、細い階段があり、その先の奥まったところにありました。前もって教えておいてもらわないと、わからない場所でした。高見順のお墓を訪ねるなら、無理をしないで、案内所で場所を教えてもらってからお参りすることをおススメします。

『東京人』2014年3月号 東京近郊の墓園にまつわる物語の数々

少し古いものになりますが、『東京人』(都市出版)2014年3月号では、「墓地で紡ぐ 14の物語」という特集が組まれ、谷中霊園や雑司ケ谷霊園、青山霊園、多磨霊園といった、主に東京近郊の墓園にまつわる物語の数々が紹介されています。墓園ごとに、どういった著名人、文学者が埋葬されているかがわかるつくりになっていて、とても使い勝手がよいです。Amazonや古書店などで、探してみられてはどうでしょうか。

Profile

二居隆司

読売新聞に入社以来、新聞、週刊誌、ウェブ、広告の各ジャンルで記事とコラムを書き続けてきた。趣味は城めぐりで、日本城郭協会による日本百名城をすべて訪ねた。

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