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【鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」】ボジョレ・ヌーヴォーはパリのビストロの救世主

イラスト◎岸リューリ

求む! 安くてうまいワイン

第二次大戦中、フランスはドイツの占領で国土を分断された上、鉄道も接収されて、安酒大量生産地ラングドックのワインがパリに供給されにくくなり、ひどく質の悪いワインが居酒屋に出回ってパリジャンを困らせていた。

そんな折り、たまたまリヨン地域を旅したワイン・ジャーナリストが、新酒がうまいというこのガメー種ワインの特徴を発見して、知り合いのパリのビストロの亭主たちにこれを喧伝(けんでん)してまわった。安くてうまいワインの不足に頭を悩ませていたビストロの亭主たちはすぐにボジョレ・ヌーヴォーに飛びついた。

こうして「ボジョレ・ヌーヴォー到着しました」という例のビラがパリのビストロに張られるようになったのである。

このようにボジョレ・ヌーヴォーの発見と普及は、ひとえにワイン・ジャーナリストとビストロの亭主の努力によるものだが、この両者の協力を記念してか、グルメ・ジャーナリストたちで構成する美食クラブ「アカデミー・ラブレー」は1954年以来、もっともうまいボジョレ・ヌーヴォーを供したパリのビストロに「最高の一ビン」賞を与えている。

高級ワインをうまいということはだれにでもできる。しかし、値段の割にうまいワインを見つけだすことはだれにでもできることではない。

【グリの追伸】日差しを浴びると、半身、白猫のようになりますね。晩秋の小春日和は最高です。

鹿島茂
日に当たっても美白

photos by Shigeru Kashima

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Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰

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