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【鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」】ボジョレ・ヌーヴォーはパリのビストロの救世主

秋も深まってきました

11月の第3木曜日といえば、ボジョレ・ヌーヴォーの解禁日。今年の新酒を味わう前に、ぜひこちらのエッセイを。フランス文学者の鹿島茂さんが愛猫のグリ(シャルトリュー 10歳・♀)とともに、年に一度の"ワインのお祭り"について解説します(本記事は鹿島茂:著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(中公文庫)から抜粋し作成しています)

突然のように注目を集めだした

ブームというのはすぎてしまうと、あれはいったいなんだったのだろうと首をかしげたくなるのがほとんどだが、バブル全盛期に突如日本を襲った11月第3木曜日のボジョレ・ヌーヴォー騒ぎなどはこのいい例である。

しかし、ブームを経過したことで、その後ワイン熱が高まり、至るところにワイン通が誕生したのだから、これはこれで目出度いことなのかもしれない。

ところで、このボジョレ・ヌーヴォー、日本ではワイン通を自任する者はすべからくこれを馬鹿にすべしという不文律があるようだが、私ははっきり言ってうまいと思う。というのも、高級ワインについてはそれほど知らないが、低級ワインならフランスの定食屋でさんざん飲んで、そのまずさのほどをいやというほど知っているからだ。あのまずさにくらべたらボジョレ・ヌーヴォーは値段の割に断然うまい。ようは相対的なうまさの問題なのである。

じつは、フランスでボジョレ・ヌーヴォーが第二次大戦から戦後にかけて、突然のように注目を集めだしたのも、この「相対的なうまさ」のためだった。

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Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰

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