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ヤマザキマリさんの「自由を選んだ人生」 大師匠は愛猫のベレン 

人にはたくましさがある

「高い目標を掲げちゃうと、その通りにならない時に人は挫折するので、どこかで“いい加減”な気持ちを持つことも大事なんじゃないかなと思います。『まぁいいか、やるだけやってみたし』と執着をすがすがしく切り離す。その後に、たとえば別のことをしてみて、『なんかこっちのほうがおもしろいかも』といった浮気心的なものを抱くのも大事なことだと思います。

家族なり社会なり自分なりによって構築された目標や理想に向かって突き進んでいても、潜在意識にある自分の本質が『もうそっちの方向には行きたくない、自分のキャパ的に無理』という声を上げているかもしれない。その声に耳を傾けて、本音に向き合えるかどうか。まわりの人や親の顔色を気にせず、立ちどまれる勇気を持てるかどうか。自分らしさをいかせるドアが、他にもたくさんあることに気が付くのは、まさにそんな時なのです」

nextstage ヤマザキマリ2

家族の在り方もそうだ。「家庭のフォーマットをひとつもまっとうできない」というヤマザキさんは、かつて、出産を機に当時つきあっていた詩人と別れ、数年後、14歳年下の今の夫と結婚。現在、夫はイタリアで暮らし、ヤマザキさんと息子は日本で別々に暮らすが、毎日連絡を取り合う仲で、年に数回だけ旅行をするなりして一緒に過ごす。

はたから見れば不自然に思われるかもしれないが、ヤマザキさんにとっては家族は血縁よりも生活共同体。家族であることに、物理的距離感と結束感は全く関係ないと、『猫がいれば、そこが我が家』にもつづられている。

「それぞれ自分のことは自分でメンテナンスしつつ、意見が共有できなかったり考え方に差異があっても、それをけん制し合うでもなく共に過ごす。それが私たち一家のありかたです。まわりにどう思われようと構いません。でも私たちにはそれぞれの持ち場でそれぞれが頑張っているという敬いは確実にある。人はひとりきりであっても、生きる力や生命力を信頼してあげないといけないんですね。もっと人は、乗り越えられる、たくましさがあることを自覚するべきだと思います。

では本当のたくましさは何かというと、俯瞰(ふかん)で自分を見る力、自分を批判できる力ですね。甘やかすのも大事だけども、同時にいつも『それでいいのか』と問える力を持つことです」

たとえば、嫌われる覚悟で自分が本当に言いたいことを言うことも、たくましさ。「嫌われてなんぼ」ではなく、「自分の中での確信あるチョイスがたくましさになる」ということだ。

全身全霊で生きる

ヤマザキさんの生き方にロールモデルがあるとするなら、それは昆虫や猫など生き物だ。地球に授かった命と生命力と機能を全身全霊で駆使して死んでいく姿に、また打算や妥協のない生きざまに多くを学んだ。

「とにかく自らが備えているすべての機能を使って生きているのを見ていると、自分もこうじゃなきゃいけないなと思うわけです。とすると、人間は、精神力という独特な機能の修練をおざなりにしてはならないなと思うのです。

猫を見ていると、この子の死に目にいつかは立ち会わなければならない。自分の方が早いかもしれないけど、それも含め、ごまかしではなく死生観に向き合うことも、大事な精神性のトレーニングです。動物を飼う人はそうした死生観と向き合っていかなければならないと思います。いつか別れが来ることをちゃんと念頭におきながら」

『猫がいれば、そこが我が家』には、昨年、他界したヤマザキさんの母の死についても書かれているのだが、ヤマザキさんは「悲しさよりも、人間としてのダイナミックな生き方を見せてもらったことに感謝したくなる気持ちのほうが強かった。精いっぱい自分の人生を生きた人の死は遺(のこ)された人に善いエネルギーを残していってくれるものです。私もそうありたいと思いました」と話す。

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関連情報
  • 猫がいれば、そこが我が家
    著者:ヤマザキマリ
    発行:河出書房新社
    単行本:200ページ
    価格:1,485円(税込み)
    Amzon:https://amzn.asia/d/7IIg2SX

Profile

ヤマザキマリ

漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞メディア芸術新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受賞。著書に『プリニウス』(とり・みきと共著)、『ヴィオラ母さん』『CARPE DIEM 今この瞬間を生きて』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』など。

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