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ファッションと研究の共通点とは? データサイエンティスト宮田裕章さんが語る

日本の新しいデジタル社会のあり方を提案しているデータサイエンティストで慶応大学医学部教授の宮田裕章さんは、個性的なファッションでも異彩を放っている。研究とファッションには共通点があるという宮田さんに、自身の服との関わりやファッションの未来について聞いた。

自分自身にも先が見えないところがファッションの面白さ

研究者としてファッションをどのようにとらえていますか?

ファッションの面白さは、直前まで「こんな格好、一生しない」と思っていたものについて、急に着たいと思うようになったり、その逆で「一生、着続けたい」と思っていたものを着たくなくなったりするなど、自分自身にとって先が見えないところにあります。こういった先が見えないところや柔軟さがファッションの魅力です。

この柔軟さは、研究者の仕事にも通じます。研究者は、常に普遍的なものや変わらないものだけを追い求める傾向があります。それはいろいろな限界をつくることになります。研究者には、昨日の自分を全否定するような柔軟さがすごく大事です。新型コロナウイルス対策は変異株が登場するたびに最強だと思っていた戦略が覆りました。こうした時、ファッションに通じる柔軟さが研究に生きてきます。

「研究者にもファッションが持つ柔軟性が大事」と宮田さん

ファッションの可能性がデジタル化で広がる

デジタル化がファッションに及ぼす影響は?

これまで服は、近代化が生み出した大量消費、大量生産の象徴となっていました。産業革命の始まりが綿織物産業を中心とした社会変革だったことでも明らかです。現在、デジタルを組み合わせることで、多様性に配慮して多品種少量生産となっても、コストが大幅にかからない時代になりつつあるとみています。

そういう時代の中で、「服をまとう」ことがどういうことなのか。これから変化していくと思います。これまでは、服をまとう、自分の体がベースになっていました。例えば、ファニーなものが好きでも、自分のキャラに合わないと着ないといったことがあるでしょう。メタバースが出てくると、もしかしたら、そちらでまとったもののイメージを現実に持ち帰ることもできるかもしれないのです。このように自分の体、人間じゃないものの中でファッションを楽しむこともあり得ると思います。ファッションの可能性そのものがデジタルで広がっていくと考えています。

ファッションにもかかわる分野でいうと、岐阜県飛驒市に2024年に開学を目指す大学の構想に学長候補者として参画しています。「Co―Innovation University(略称コーアイユー)」は未来をともにつくる大学です。飛驒という大都市ではない場所で生まれる新しい価値を大切にしながら、ファッションをはじめ、経済、文化、アート、建築、エネルギーなどさまざまな領域が連動しながら、地域の未来をつくっていければいいなと思っています。

ファッションに興味を持ったきっかけは?

呉服店を営んでいた祖母は、派手で少し尖ったファッションを好んでいました。幼少期から、祖母をはじめ、面白いと興味を持つことができるファッションがいつも身近にあったことが影響しています。ファッションそのものをすごく大切に思って生きてきました。

自分自身を表現する時、ファッションと切り離すことができません。個として社会とどう向き合うか。自分自身が考えていることと、社会とのつながりとして、身にまとう行為であるファッションがあります。ファッションは自分の表現の一部です。何を考えているのか。ファッションでどんなメッセージを発信するかが大事だと考えています。

公の場のファッションは、病院のドレスコードを参考にしている

自身のスタイルの基準は?

本格的に服を選ぶようになったのは大学時代からです。ほんの一時期ですが、レディースを好んで着た時代もありました。今日は、デザイナーの中里唯馬さんの「YUIMA NAKAZATO」を着ています。スニーカーは「バレンシアガ(BALENCIAGA)」です。バレンシアガは、ジョージア出身のクリエイティブディレクター、デムナ・ヴァザリアさんの、美醜の一般的な基準を超越した世界観にとても興味があります。

公の場に出る時に、個性的といわれるような服装をするようになったのは、6年、7年前からです。プライベートでは、ずっと一貫して尖ったものが好きでした。自分自身を表現する中で、見えているものと見えていないものを含めて一貫性が必要だと思うようになりました。今、サステナビリティの観点からも、ファッションが一瞬のまとう快楽だけではなく、社会とのつながり、「まとう」ことでどんなメッセージを発するかがより大事になっていると考えています。また、自分自身の一貫性でファッションを考える時、大切にしているものがあります。

私自身は医師ではないので患者さんの前に立つわけではないのですが、今は病院のドレスコードを参考にしています。髪の色は、病院のドレスコードでは、「攻撃的な色にしない」とされています。白は攻撃的ではないと考えてホワイトブリーチにしました。もちろん、この髪の色も来月には変わるかもしれません。

「『まとう』ことでどんなメッセージを発するかがより大事になっている」と宮田さん

text: Kyoko Masamoto

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Profile

宮田裕章さん

みやた・ひろあき 1978年生まれ。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。慶應義塾大学医学部教授、東京大学特任教授。岐阜県出身。厚生労働省とLINEなどが実施した新型コロナウイルス対策のための全国調査のプロジェクトにもかかわった。

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