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中村米吉と市川染五郎 麗しき若手が歌舞伎の名作と芸を引き継ぐ【秀山祭九月大歌舞伎】

第二部『松浦の太鼓』左端が中村米吉、左から4人目が市川染五郎

今月、歌舞伎座で上演中の「秀山祭九月大歌舞伎」が賑わいを見せている。秀山祭とは、戦後歌舞伎の礎を築いた初世中村吉右衛門の功績を讃えるとともに、その芸を継承するため、2006年から始まったもの。さらに今年は、この秀山祭を初回から牽引し続け、昨年亡くなった二世吉右衛門の一周忌追善でもあり、多彩な顔ぶれが揃った華やかな興行となっている。

弟の当たり役を兄・松本白鸚が演じる

第二部で上演される『松浦の太鼓』は、江戸城殿中で刃傷沙汰を起こし切腹した浅野内匠頭の家臣たちが仇敵である吉良上野介を討つまでを描いた「忠臣蔵」の外伝物語で、吉良邸の隣に屋敷を構える大名・松浦鎮信が主役の演目。初世吉右衛門が当たり役とし、二世吉右衛門も度々演じて大切に育ててきた役を、二世吉右衛門の兄である松本白鸚が初めて演じているのが話題だ。

歌舞伎らしい人間ドラマと風格を味わえる本作で、大ベテランの芸を観られるのも貴重だが、さらに、今年注目を集めたふたりの若手歌舞伎俳優が共演しているのも必見だ。そのふたりとは、中村米吉と市川染五郎である。

中村米吉は、中村歌六 の長男として生まれ、2000年に初舞台を踏む。18歳のとき、女方に重点を置くと決意して以来、華麗なお姫様から貧しい市井の女性まで幅広い役柄をこなし、その実力は認められていたが、歌舞伎ファンだけでなく広く知られることになったきっかけは、今年7月に上演された『風の谷のナウシカ』だったといえる。19年に初演された本作が歌舞伎座で上演されることになり、ナウシカ役に抜擢された。

『風の谷のナウシカ 』でナウシカを演じた中村米吉 撮影:永石勝

米吉演じるナウシカは凛々しくも可憐で、宮崎駿作品の舞台化ということで劇場に足を運んだ漫画・アニメのファンたちが、ロビーで「ナウシカ可愛い!」「あの役者さんはいったい誰!?」と話していたのが印象に残っている。

一方、市川染五郎は、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演しお茶の間でもブレイク。6月の歌舞伎座公演『信康』で主役を勤めて著しい成長を見せ、8月は人気シリーズの新作『弥次喜多流離譚』で女方や早替りにも挑戦して観客を沸かせた。23年1月公開の木村拓哉・綾瀬はるか共演の映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』に森蘭丸役で出演することが決定。ファッションモデルとしても活躍し、“新時代の歌舞伎俳優”の道を拓きつつある。

『信康』で徳川信康を演じた市川染五郎 撮影:永石勝

『松浦の太鼓』でふたりが登場するのは二幕目の「松浦邸の場」からだ。米吉は腰元として働くお縫を、染五郎は鎮信の側近のひとり・里見幾之亟を演じている。

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Profile

香月友里

かづき ゆり。フリーライター。出版社の編集者を経てライターに。同居する5匹の犬猫たちにお仕えしながら、映画とドラマと演劇とJ-POPにどっぷり浸る日々を送る

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