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鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」【イギリスに紅茶、フランスにコーヒーが根付いた理由】
2022.9.22
9月も後半、紅茶やコーヒーが美味しい季節の始まりです。紅茶が有名な国といえばイギリス、一方フランスでは紅茶よりも断然コーヒーが好まれます。その違いはどこから生まれたのでしょうか。フランス文学者の鹿島茂さんが愛猫のグリ(シャルトリュー 10歳・♀)とともに、海外ルーツのモノやコトについて語ります。(本記事は鹿島茂:著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(中公文庫)から抜粋し作成しています)
こだわり方がまったく違う
英仏のあいだに横たわるドーヴァー海峡は、狭そうで案外幅のある海峡なのかもしれない。海峡一つ隔(へだ)てただけで、かくもことなるものかと驚くような習慣が多くあるからだ。紅茶などはそのよい例である。
フランスのカフェやレストランでは、紅茶はレモン・ティーかミルク・ティーの別のみで、ダージリンとかセイロンとかアッサムなどという葉の区別というものがほとんどない。相当に高級なレストランでも、安紅茶のティー・バッグをティー・ポットに入れたものを平気で持ってくる。一般家庭でも、ティー・タイムなどというものは存在しない。
しかも、紅茶の淹(い)れ方もいたって無神経で、渋すぎたり、反対にひどく薄かったりする。お湯の温度や葉の分量に気を使うイギリス人とはえらいちがいである。
おそらく、紅茶に関するこうした英仏のちがいは18世紀の七年戦争〔1756-1763〕に端を発しているのだろう。
フランスはイギリスと競争してインドの植民地化を推し進めたが、七年戦争の敗北でインド権益のほとんどを失った。
その結果、インドと極東でしか取れない紅茶はフランスに入ってこなくなったのに対し、仏領西インド諸島でプランテーション開発が進んだコーヒーはフランスに大量に輸入されて、カフェ文化を開花させた。
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