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市川染五郎と市川團子『弥次喜多流離譚』で歌舞伎の次代を背負って立つふたりが熱演

盟友と守る歌舞伎の灯火

そんなふたりが、さまざまな新境地を開拓し、目覚ましい成長を見せているのが『弥次喜多流離譚』だ。今回の染五郎&團子の見どころは、「一人二役」と「早替わり」。梵太郎&政之助に加えて、かわいい新キャラが登場する。

前作で花火とともに打ち上げられた弥次郎兵衛と喜多八が流れ着いた太平洋の孤島で物語が始まる。この島を襲撃しにきた海賊の船を逆に乗っ取ったふたりが、日本を目指して旅立つ。

まずたどり着いた長崎で、弥次郎兵衛が一目惚れするのがポルトガル人宣教師の愛娘オリビア(染五郎)。そして、江戸に向かう道中で、喜多八が恋に落ちるのが商人の娘お夏(團子)である。

日本を目指していた弥次郎兵衛(松本幸四郎・左から2人目)と喜多八(市川猿之助・左)はたどり着いた長崎で、ポルトガル人宣教師ザブエル(市川門之助・写真右)とその娘オリビア(市川染五郎・右から2人目)と出会う ©松竹株式会社
喜多八が恋に落ちたのは商人の娘・お夏(市川團子・左)
©松竹株式会社

オリビアとお夏の推しメンが同じ歌舞伎役者であることがわかり、4人は連れ立って歌舞伎座を目指すことになるが、そこはいつもの通りすんなりことが運ぶわけではなく——。

歌舞伎座を目指し旅をする4人。ここでは五代政之助に扮している市川團子(左から3番目)©松竹株式会社

一行がたどり着いた湘南の「家族商店」というコンビニの店先で、たむろしているヤンキーの総長が梵太郎(染五郎)で、親衛隊長が政之助(團子)。「図夢歌舞伎『弥次喜多』」に引き続き、ふたりはお家が没落してすっかりグレてしまっていた。

梵太郎とお夏、そして政之助とオリビアは、互いに惹かれ合う。ということで、さまざまなパターンの“ふたりのシーン”が繰り広げられる。染五郎=オリビアは、歌舞伎における娘役の概念を覆すのではないかと思えるほど洒脱な美しさで、團子=お夏の所作は、可憐とユーモアが相まった巧さに唸らせられ、それぞれ二役のコントラストが小気味いい。

惹かれ合う梵太郎(市川染五郎・二役・左)とお夏(市川團子)©松竹株式会社

また、劇中繰り広げられるヤンキーとレディースとの踊り競べの場では、染五郎&團子がセンターを勤めた『ウエストサイドストーリー』を彷彿とさせるフォーメーションダンスあり、古典ならではの踊りありと、パッション炸裂のダンスバトルが繰り広げられて、理屈抜きで楽しめる。

紆余曲折を経てたどり着いた歌舞伎座は、世間に蔓延する疫病のため閉鎖に追い込まれ、立て直しを図るため大道具をオークションにかけるほど経営困難に陥っていた。歌舞伎に思い入れなど微塵もないルソンの大富豪に劇場を買い取られそうになったところに現れた弥次郎兵衛と喜多八は、歌舞伎の本拠地を守るため奮闘する。

本水での格闘シーンなどダイナミックな演出も見どころ ©松竹株式会社

コロナ禍以降、感染対策のための休演や座席制限という苦境に見舞われている演劇界。それでも歌舞伎の灯火は決して消さないという、演者とスタッフの強い決意がひしひしと感じられる本作。誰が観ても胸アツ必至である。

本作の主役である幸四郎と猿之助は、幼い頃から共演し、数多くの作品を共につくってきた。亀治郎から四代目猿之助を襲名することになったのを、最初に伝えたのが今の幸四郎(当時は七代目染五郎)だったという。

劇作家の三谷幸喜は、エッセイ『三谷幸喜のありふれた生活』で、2006年に作・演出を手がけた『決闘!高田馬場』に出演した幸四郎(当時は染五郎)と猿之助(当時は亀治郎)たちについて、「稽古場の彼らを見ていると、えらく仲がいいので、驚いた」「彼らの間には利害関係みたいなものは一切感じられない」と書いている。そして何より、芝居に懸ける情熱の凄さと、歌舞伎への愛に感服したと。

クライマックスでは4人の宙乗りも ©松竹株式会社

そんな父やおじたちのもと、歌舞伎役者として経験を積み、切磋琢磨する染五郎と團子。染五郎はインタビューで「同世代だからこそ、できる役や作品もあると思うので、貴重な存在」と語り、團子は「台詞でも動きでも、相談しなくても自然と揃う」と、互いを評している。師である父やおじたちが培った信頼関係を、次の歌舞伎界を担う若いふたりも築きつつあるようだ。

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Profile

香月友里

かづき ゆり。フリーライター。出版社の編集者を経てライターに。同居する5匹の犬猫たちにお仕えしながら、映画とドラマと演劇とJ-POPにどっぷり浸る日々を送る

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