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市川染五郎の覚悟を見た。歌舞伎座初主演『信康』で“絶対に負けられない戦い”に挑む

自分の考える戦略に合った鉄砲ができて喜ぶ信康 

儚い少年性から脱皮、力強い輝きを放って

そうして迎えた初日。歌舞伎座の舞台に現れた染五郎は、歌舞伎役者としての覚悟を全身で宣言しているようだった。

自分の目指す戦術に適した新しい鉄砲を手にし、次の戦いへの意気込みと、徳川家嫡男としての野望を熱く語る信康。才気煥発な若武者ぶりは、これまで儚い少年性が強く感じられた染五郎からひとつ脱皮し、力強い輝きを放っている。一方、信長の怒りをかった原因は正室の徳姫にあるのではないかと疑った信康が、徳姫を問いただす場面では、姫に相対する染五郎の所作が美しく、緊迫したシーンなのにうっとりさせられる。

信長から謀反の疑いをかけられている信康に、城を移って謹慎するよう命じる家康(松本白鸚・右)

注目すべきは第二場。母の築山御前とともに武田方に通じていると疑われ、謹慎の身となった信康の心情の推移を、染五郎が丁寧に演じている点だ。

自分の心に巣食った弱さを静かに吐露し、父家康を怒りをもって批判し、そして徳川家を守るため、家臣に“あること”を激しく命じる。物語の展開に従って変化する感情を細やかに表現し、ドラマ性を際立たせていた。

徳川家を守るために死を覚悟した信康は、家臣に“あること”を託す 

演劇、特に歌舞伎は、役と役者の年齢が離れていることが少なくなく、歳を重ねて芸を磨くほど年齢を超越できる芸術である。しかしその一方で、その年齢の感性と肉体でなければ表現できないことがあるのも紛れもない事実だ。

染五郎が、生来の美しさと色気だけでなく、演技でも魅せる花形役者として花開こうとする瑞々しい姿を目撃できる作品として、『信康』は必見の舞台である。

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【六月大歌舞伎】
●公演期間: ~6月27日(月)
●劇場:歌舞伎座(東京都中央区銀座4丁目12−15)
●上演時間:第一部 午前11時~/第二部 午後2時15分~/第三部 午後6時~  
※【休演】9日(木)、20日(月)
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Profile

香月友里

かづき ゆり。フリーライター。出版社の編集者を経てライターに。同居する5匹の犬猫たちにお仕えしながら、映画とドラマと演劇とJ-POPにどっぷり浸る日々を送る

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