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貴石が生まれる奇跡の軌跡。宝石のキセキに科博で出会う

「アール・ヌーヴォー フーケ & ミュシャ作 コルサージュ・オーナメント」 1900年頃 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート

現在、国立科学初物館で開かれている「宝石 地球がうみだすキセキ」展。「宝石なんて」と思っている人にこそ観てほしい展覧会だ。

宝飾品マニアの期待も裏切らない充実の展示

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宝石展といえば、絢爛たる宝飾品の陳列を通して出展ジュエラーの威容を強調する内容だったりして、華やかだが、実生活との接点を見出すことが難しかった。

それが今展は違う。地球の躍動によって宝石の生まれるプロセスに焦点を当てているからだ。まず、宝石の原石が含まれる母岩があって、それが多種多様な化学反応や、結晶化と融解を繰り返しながら鉱物を形成する。その中から、美しさ、耐久性、適度な大きさを備えたものだけが、採掘され、加工されて宝石になる。

「ピラミッド形ダイヤモンドの指輪」 15世紀 ダイヤモンド、金 国立西洋美術館所蔵 橋本コレクション
「サファイア(ラフ)」 日本彩珠宝石研究所所蔵
「サファイア(ルース)」 日本彩珠宝石研究所所蔵

宝石誕生のプロセスを丹念に紹介

その過程を科学博物館らしい律儀さで紹介している。「原石の誕生」から「宝石の極み」まで全5章。丹念な解説によって、宝石が自然と人為による奇蹟の産物であることが伝わってくるのだ。何ともロマンティック! 国立西洋美術館から貴重な橋本コレクションの指輪約200点やハイジュエラーによる超絶技巧の宝飾品も展示してあり、マニアの期待も裏切らない。

「葡萄の葉のクリップ」 1951年 ヴァン クリーフ&アーペル所蔵
「スカラベ」 中王国時代、12-13王朝、紀元前1991-1650 アメシスト、金 国立西洋美術館所蔵 橋本コレクション

所有の有無はさて置き、展示を観終わると、宝石がきっと身近な存在になっているはずだ。そこから地球の神秘や人間の美への欲望、そして装飾の本質的な意味合いなど、さまざまな思いが広がっていくだろう。

「虫入り琥珀」 日本彩珠宝石研究所所蔵
「2つのブレスレットに形を変えるネックレス」 1955年 ヴァン クリーフ&アーペル所蔵

展覧会情報
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」
会場:国立科学博物館 地球館地下1階
特別展示室(東京・上野公園)
会期:~6月19日(日) 月曜日休館(祝日の場合は翌火曜日休館)
*3月28日、5月2日、6月13日開館
*7~9月に名古屋市科学館にも巡回予定
https://hoseki-ten.jp

関連情報

Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。子どものころ、道端に転がっている石ころで気に入ったものを家に持ち帰る変な癖があった。高校生の時、つげ義春の『無能の人』を読んで、大人になっても同じようなことを続け、その石に銘を付けて売って生計を立てている人がいることを知った。一瞬あこがれたが、幸か不幸か、才能にも度胸にも恵まれなかった。舗装された路傍に、心を留める礫はもう見つからないが、今展を観ていて探石に夢中になっていた時の記憶がかすかに甦った。

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