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対話型AIが注目を集める中、江戸時代の「いにしえ好き」が切り拓いた文化の豊饒に歴博とたば塩で驚く【what to do】

江戸時代に広がる「いにしえ好き」の系譜

そんなこともあったので、「いにしえが、好き!-近世好古図録の文化誌-」というタイトルを国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)のチラシで見かけた時から興味を持っていた。それで出かけてみると、面白かった! 江戸後期、神戸の豪商だった吉田家が3代にわたって編纂した『聆涛閣集古帖(れいとうかくしゅうこちょう)』という図譜集に焦点を当てた企画展示。図譜には考古資料や美術工芸品など約2400件が鮮やかな彩色で描かれている。古物がどうしようもなく好きで手元に置いておきたいが、現実的には無理なのでそれを描いて収集するという趣。ヨーロッパの植物図のような博物学の試みにも似ているが、収集の基準が学術的というより、「好き!」という思いが優先しているのがいい。


上、『聆涛閣集古帖』食器 江戸後期 国立歴史民俗博物館蔵
下、重要文化財 白瑠璃碗 古墳時代(6世紀) 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives

もっとも、その図録だけでは飽きてしまう可能性もあるが、図譜に描かれた実物が一部展示されていて、「二次元」での収集を「三次元」で展示しようと工夫してある。当時の人たちがどうしてこれに「グッときた」のかを図譜と実物を見比べながら思いを巡らせるのも面白い。そうした「いにしえ好き」が当時からある程度いたようで、好古家ネットワークを取り上げているのにも「グッときた」。ここでも松浦武四郎が取り上げられていて、実際に図譜を実見するために吉田家を訪ねていたことも紹介している。会場にはあの一畳敷の原寸模型も。ただ、会期が大型連休最終日の5月7日までなので悠々として急いでほしい。別の企画になるが「来訪神、姿とかたち-福の神も疫神も異界から-」という特集展示も14日まで同館で開かれており、企画展示の一般入場料1000円で、有意義で極上な休日を歴博で過ごすことができる。

上、『聆涛閣集古帖』葬具 江戸後期 国立歴史民俗博物館蔵
中、馬形埴輪 古墳時代(6世紀後半か) 関西大学博物館蔵
下、樽形𤭯 古墳時代(6世紀) 個人蔵

Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。還暦近くになって、自身の嗜好も「好古趣味」に偏りつつある。若手のクリエイターたちが「新しい」と言って見せてくれるモノも自分とっては大抵、既視感があるのだ。化繊のスーツに白いTシャツを決まったように合わせる彼らより、江戸時代の好事家に親近感を覚えるのは恐らく加齢故の退行だろうが、自分自身、まったく悪びれていないところに救いようがありやなしや。

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