ファッションとアートの関係は【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記④】

2026~27年秋冬のパリ・ファッションウィーク(パリコレ)が3月2日から10日まで開催されました。期間中、パリ市内各所でショーや展示会なども行われました。ファッションだけでなく、街で見かけた様々なモノやコトをつれづれなるままにつづります。

2026~27年秋冬のパリ・ファッションウィーク(パリコレ)が3月2日から10日まで開催されました。期間中、パリ市内各所でショーや展示会なども行われました。ファッションだけでなく、街で見かけた様々なモノやコトをつれづれなるままにつづります。
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ロエベの会場はヴァンセンヌ城。入り口にあったグリーンのギンガムチェック柄の、とても大きなパネルが目を引きました。これも今シーズンのテーマと何か関係あるんだろうなと思いながら中に入っていくと、客席に、イカや貝など海洋生物や犬のぬいぐるみ!


これらはケニヤのモンバサに生まれ、ドイツのケルンを拠点に活動するアーティスト、コジマ・フォン・ボニンの作品の数々です。オブジェでありながら、招待客と同じように座っている姿はどこかユーモラスでもあります。




ファーストルックはランジェリードレス。ラテックスで成形しているのだとか。そうかと思うと、極細のレザーの糸で編んだタータンチェックのセーターやドレスも登場。また、フォン・ボニンの作品でしばしば登場するギンガムの「ファウンド・ファブリック」も服のライニングとして使われています。そして、2026年にロエベ180周年を記念して登場したアマソナ180には、フォン・ボニンの造形作品を思わせる犬やヤドカリのチャームも。
クリエイティブ・ディレクターのジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスは、ロエベの長年の伝統である高度な技巧に現代性を持たせながら、常識にとらわれず、さらなる可能性を探っているように見えます。
イッセイミヤケのショーは、ルーブル美術館の地下にある「カルーセル・デュ・ルーブル」で行われました。会場には銀の砂が敷き詰められています。静かに登場するモデルたち。ファーストルックは白のドレス。そして光沢のある硬質のビスチェをつけています。このビスチェを見て瞬間的に、1980年代初めに、創業者である三宅一生さんが発表した赤のボディスを思い出しました。人体から鋳型をとって作ったプラスチック製のボディスは、80年代のボディーコンシャスなファッションを象徴するようなものでした。




© ISSEY MIYAKE INC
今回のビスチェはそのDNAを受け継ぎながらも、素材には越前の職人がすいた和紙が使われ、3Dプリンターで出力した型に幾重にも貼り合わせて成形した立体なのだそうです。さらに京都の職人がうるしを塗り重ねることで、今の時代が求める手のぬくもりのあるものになっていました。
コレクションノートには「つくり手として、どこまで『つくる』という意思をかたちに落とし込むべきか。あるいは、あえて手を加えないことの先にこそ、本来の美しさを見いだせるのではないか。今回のコレクションは、ものづくりにおける『作為』と『余白』の関係性を探究しています」と書かれていました。
「1枚の布」をベースにさまざまな質感の素材を使って、どこまで作り込んでいくのか。それとも引き算をしていくのか。このバランスはとても難しい。その加減ひとつで美しさは変わります。
今回のコレクションは、最新の技術と人の手が交錯し、実はたくさんの情報も盛り込まれている服でありながら、「引き算の美」が感じられるものでした。静かで穏やか。戦争のことも少しの間だけ忘れさせてくれるものでした。

「MATTER and SHAPE」は今、パリで注目されているデザインサロン。パリファッションウィークの期間中、チュイルリー公園で開催されます。


京都・西陣のHOSOOはHOSOO Artisanal Hempを展示しました。日本で1万年以上の歴史を持つヘンプ(大麻布)を機械で織ることに成功し、極上のテクスチャーの素材を現代によみがえらせたのだそうです。新たに開発したヘンプとあわせて、300年以上前の大麻布もアルミニウムの装置に展示。古い布にはそれぞれQRコードがついており、そこからさらに詳しい情報や細部がわかる写真などが見られるようになっていました。大麻布の歴史はストーリーに関心を持つ人も多いのか、HOSOOの細尾真孝社長に熱心に話を聞く人も目立ちました。
移りゆく時の中でも生き残っていく布。HOSOOのヘンプがまた歴史を積み重ねていっています。
会場はパリ植物園内にある地質学・鉱物学ギャラリー。パリには驚くようなすてきな雰囲気の場所があるんだと、初めて行くショー会場を見るたびに思います。
アーティスティックディレクターのピーター・コッピングが手がけるランバンは、過去と現在の対話の中で進化しています。



2026年はランバンのメンズウェア誕生100年の記念すべき年でもあり、今回はマスキュリニティーとフェミニニティーの融合が表現されました。メンズウェアに着想を得たテーラードジャケットやコートは、タックやダーツやシャーリングによって体に沿うように再構築されています。誇張された帽子も印象的。創業者ジャンヌ・ランバンのキャリアの始まりは帽子職人であり、そのルーツを思わせるクロッシュを昇華させていました。
1920年代のアールデコの時代に独創的なデザインをしたジャンヌ・ランバンとパリのエレガントで奔放な「時代の空気」を、ピーター・コッピングが現代性と融合させながら巧みに表現していました。
作家の原田マハさんとデザイナーの伊藤ハンスさんによるブランド。いつもアプローチからして独創的で、しかもどこかクラシックな雰囲気を残したパリらしさを感じさせてくれます。展示会の会場は、左岸にあるギャラリー。

今季のミューズとなったのは、「マルグリット」。フランスの画家、アンリ・マティスの娘です。原田さんにとってアンリ・マティスは特別な意味を持つ画家でもあり、幼いころから通ったという岡山県倉敷市の大原美術館とも縁の深い画家でもあります。小説『晴れの日の木馬たち』の中にも、倉敷紡績の創業者で大原美術館を作った大原孫三郎が、洋画家の小島虎次郎に頼んでフランスで名画を買い集め、それを一堂に集めた展覧会で、主人公の山中すてらがマティスの描いた娘の絵を初めて見る場面が出てきます。
マティスはマルグリットを目の中にいれても痛くないぐらいかわいがり、たくさんの絵を描いています。マルグリットの絵の多くはチョーカーをしたり襟の高い服を着ていたり。幼いころに気管支の手術をした影響だとのこと。そのことを原田さんから教えてもらいました。そういう視点で見たことがなかったので、ちょっとした発見でした。


ハンスさんは毎シーズン、原田さんが書いた短編小説などをもとに、ストーリーを服に溶け込ませていきます。布や縫製工場の選び方などにもとてもこだわりがあります。さりげなくヴィンテージのレースやボタンも使われていたりして。古くから残る技術を大事にし、しかもどこか人の温かさを感じさせます。色のきれいなコートも、マルグリットがこんなのを着てたかもしれないなどと思いを巡らせたりして(マルグリットは服もデザインしていたそうです)。ビーズの小花をあしらったチョーカーと細かなフリルのつけ襟も、繊細で美しかった。


服とアートとストーリーが共鳴して創りあげられるこのブランドには「スタイル」があります。着る人にはそれらを共有する楽しさがあり、服から絵の世界へとまた関心が広がっていく面白さもあるのです。

さらには、ハンスさんが作ってくれたおやつに感動! マティスの絵のついた皿に、私の好きなベリー類がちりばめられて、これ自体がひとつの作品になっていました。
ヨウジヤマモトの会場はパリ市庁舎。いつ来ても、その豪華さと荘厳さに感動します。西洋的な豪華さの象徴ともいえる会場で見せるヨウジヤマモトは、西洋とは異なる美しさを表現してきました。

かつて山本耀司さんはインタビューの中で、「パリコレクションで新作を発表するに際してタブーにしてきたことがあります。そのひとつは日本のエキゾチシズム(異国趣味)を持ち込むこむことでした。僕にとって、日本のデザイナーが着物をパリに持っていくなんて一番恥ずかしいことだと思っていたのです」と語ったことがありました。



今回はクチュール的な雰囲気でもありながら、着物やげたなど日本的な要素が随所に盛り込まれていました。自身の中でエキゾチシズムはタブーから変化していったのでしょうか。
ショーの最中に流れてきた音楽で印象に残ったのが、耀司さんが歌う「昭和枯れすすき」。まさかパリ市庁舎で昭和歌謡を聴くとは。
フィナーレを飾る5着のドレスには、葛飾北斎の作品がプリントされていました。そういえば、招待状には、版画を刷るのに使うばれんが入っていました。「なんでばれん?」と思いましたが、そうだ、北斎は浮世絵師。その関連だったんですね、きっと。しかも、葛飾北斎の娘、葛飾応為(おうい)は当時数少ない女性浮世絵師だったことを思い出しました。耀司さんの娘、山本里美さんもこのところいつもショー会場におり、近年、ヨウジヤマモトのコレクションの中にも彼女の服が数点含まれています。
最後には、耀司さんが登場。招待客は毎回、この瞬間を楽しみにしていたのではないかと思うぐらいの大きな拍手を送ります。
text : Izumi Miyachi
・ショーの会場が多彩!【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記②】
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